【マスターブリュワー直撃シリーズ、エピソード(4)】「ホップ三部作」前編! クラフトビールに“きれいな”苦み?

いや~、帰ってきましたよ。編集長Dです。いや、帰ってきたのは私じゃないんですけどね。クラフトビールのシリーズ「Craft Label(クラフトラベル)」の魅力を追いかけるこのシリーズ記事がですよ!帰ってきました!

前回はエピソード(1)(2)(3)の3回にわたり、「Craft Label」の3つのタイプそれぞれの味わいや個性、そして食べ物とのマリアージュのアイデアを、開発の司令塔であるマスターブリュワー氏に直撃したわけですが、今回はそのビールの味と香りを決めるキーファクターのひとつ「ホップ」にグググッと寄りまして、エピソード(4)(5)(6)とまた3本(いわゆる「ホップ三部作」)、やっていきたいと思いやす。ぜひまたお付き合いをお願いしやす。フォースとともに。フォースがなければ、ビールとともに。

ビールづくりの“メインキャスト”ホップの役どころをおさらい

ビールづくりの“メインキャスト”ホップの役どころをおさらい

ということで、今回もやっぱり直撃しましたのは、「Craft Label」の“総監督”にして麦芽とホップが渦巻く銀河のジェダイマスター(この称号も4回目)、ジャパンプレミアムブリュー株式会社ただ一人の「マスターブリュワー」新井健司(あらい・たけし)さん。よろしくお願いいたします!

まずは、「Craft Label」の中でも“ホップのグッとくる苦み”を特にフィーチャーした「Craft Label 香り踊るジャグリングIPA」を例に、ホップの奥深さをちょっとお勉強。

ちなみにIPAというのはクラフトビールの中でもホップの苦味をガンガンに利かせた種類で、一大ブームがきているアメリカではクラフトビールの“代名詞”的に人気があります。が、この「香り踊るジャグリングIPA」はホップの苦味をしっかり出しつつも“日本人が思うフツーのビール”の飲みやすさ・ノド越しといったところも満たす一本で、新井さんの知識と経験の全てを注ぎ込んだ大変な労作にして傑作なのでありますよ。

その絶妙なバランスを支えているのが、「ホップ」、なんですねえ。

「メインで使っているのは3種類のホップ。国産のリトルスター、チェコ産のザーツ、アメリカ産のカスケード。それぞれ個性が違うホップを、それぞれ製造過程の違うタイミングで入れる、というのがこの商品の特徴になります」

ホップには2つの役割がありまして、苦みを出すことと、香りをつけること、ですね。そして、同じホップでもどちらの役割がより強く引き出されるかは、ビールに添加するタイミングで変わってくるのです。同じ選手も起用法を変えれば違う持ち味が発揮される、みたいな感じですね。

「通常、ホップは麦汁を煮沸するタイミングで入れます。すると苦味の元になる成分が熱で変化し、しっかり苦みが出ます。また、ホップのあまり良くない香りも適度に飛ばされます。煮沸の時間は60~90分ぐらい。その中のどこでホップを入れるかによっても、出てくる苦みや香りが変わってきます」

おおお、奥深い話になってきました。皆さん、ついてきてくださいよ。フォースとともに。

ホップの個性を狙い通りに引き出す“秘技”

ホップの個性を狙い通りに引き出す“秘技”

3つのホップのうち、煮沸の段階で入れるのは2種類。リトルスターとザーツ。まずリトルスターを煮沸のスタート時から入れます。これで苦みをしっかり引き出すわけですね。ザーツは煮沸が終わったすぐ後、まだ熱い段階で投入。不要な香りを余熱でほど良く飛ばしながら、「ファインアロマホップ」であるザーツ特有の香りをしっかりつけることができます。

「リトルスターとザーツは、本来はピルスナータイプのような伝統的できれいな香りが特徴のビールに使われるホップで、IPAにはあまり入れません。しかし『香り踊るジャグリングIPA』はクラフトビール初心者の方にも楽しんでもらえる味わいを目指したので、爽やかで洗練されて安定感のある“いわゆるビール”の要素をしっかり出すために、あえて定番どころのホップを使って風味のベースラインをつくっています」

そのベースの上に、満を持して登場するのが3番目のホップ、カスケード。これはIPAにはよく使われる、というより今の北米でのIPAブームに火をつけた、“ザッツIPA”的なフレーバーホップなんですねえ。それを今回は「独自のドライホッピング製法」なる特別な方法でもって添加しているとのこと。ドライホッピング?ジェダイの秘技か何かですかね。

「ドライホッピングは、麦汁の煮沸が終わった後でホップを入れる手法です。その中でもまたいろいろタイミングの違いがあるのですが、当社で採用した独自のドライホッピングは『煮沸の後、発酵の前』でカスケードを入れるというもの。煮沸後の麦汁の温度が下がり、酵母が発酵できる10~20度くらいになった段階で添加します。低温なので苦みの成分はあまり出てきませんが、一方で香りは飛ばされることなく、じっくりじっくりと染み出てきます」

これによって“ザッツIPA”カスケードの香りだけをうまいことピックアップしているわけですね。定番ピルスナー風のベースラインの上にちゃんとIPAのアイデンティティを定着させるという、絶妙なバランスの商品キャラクター構成。さすがです。ガーサスです。ジェダイとは関係なさそうですが、やっぱり秘技には違いなさそうですねえ。感じます、フォース。

そして“伝説”へ……?

そして“伝説”へ……?

こうして「香り踊るジャグリングIPA」は、“フルーティーで華やかな香り”と“グッとくる苦み”というIPAの特徴と、“心地よい後味”という定番ビール的な飲みやすい味わい、そのいいとこ取りに成功。新井さん曰く、そのカギは「すっと残る苦み」でなく「最初にグッとくるけどスッと消えていくような、“きれいな”苦み」だそうで。皆さん、“きれいな”苦みですよ。苦味にも“きれい”という形容があり得るんですね。深いっす。

そんな新井さん、ジャパンプレミアムブリューの親会社であるサッポロビール時代にはドイツ留学の経験があり、現地ではドイツのみならずヨーロッパ各国に出向いては飲み歩き(ご本人に代わり断っておきますが、仕事ですからね)を重ねるなど、世界のビール事情に精通した完全無欠のまさしくマスターなのであります。「香り踊るジャグリングIPA」の開発にあたっても、3種類のホップのチョイス、それぞれを添加するタイミング、すべて頭の中でイメージしていた味わいを一発で表現してみせたとかで、いやもうほんとに、舌を巻いた上にあと体の何カ所かも巻かないと追いつかないくらいの、感服です。恐れ入ります。

で、で、ですよ。そんな新井さんから「サッポロビールで育種開発した“伝説のホップ”がありまして……」という全くもって聞き捨てならない、捨てるなんて論外で何度もリサイクルして鼓膜に響かせてやりたいくらいの、重大なストーリーを伺いまして、ええ。何せ“伝説”ですからね。もちろんもったいぶって、次のエピソード(5)でご紹介したいと思います。お読み逃しなく!