世界史の教科書をまる暗記する受験生のように、「バッカスの選択」を一字一句ご愛読の諸氏であればご存知のキーワード「酔い足し」。いやいや知らんがな、という方のためにご説明すると、「料理を美味しくする脇役としてお酒をちょい足しする技法」のことで、我々が勝手に提唱している酔狂なテクニックである。
これまでに「ウイスキー『余市』で肉をフランベ」、「ハマグリの酒蒸しにウイスキー『白州』で追い打ち」、「フカヒレのスープに紹興酒を投入」、「ゴーヤチャンプルを泡盛で香りづけ」などを記事で紹介してきたが、今回は初の“スイーツへの酔い足し”である。
唐突だが、編集長Dは無類の甘党だ。
こんな風体の露出が多いためか、人には「酒は辛口の日本酒、コーヒーはブラックしか飲まないんですよね」としばしば言われるが、1杯目からカルーアミルクでも何の問題もないし、スタバに行けばダル甘のホワイトモカをグランデかベンティでしか頼まない。マックシェイクのMサイズを飲むためだけに遠回りしてマクドナルドに立ち寄ることさえある。
アラフォーになった今でさえ、いつか叶えたい夢は「業務用のホイップクリームのあの絞り袋を口にあてがい、直で吸いたい。思う存分吸いたい。夢中で吸いたい」である。今年も七夕の短冊に書いた。自己分析するに、これはもう「甘党な大人」の範疇ではなく、味覚がお子ちゃまのままで止まっている、ないし、「味覚の第二次性徴」がおそらく私には到来しなかったのではないかと思う。
と、私の身の上、いや舌の上話はどうでもいい。そんなお子ちゃま呑兵衛であるところの編集長Dが今回おすすめする「酔い足し」ネタ、それはプリンである。用意したのは濃厚な「卵」感が全開状態のプリンというのか、クレマカタラーナというのか、とにかく最高に甘っとろい編集長D好みの糖分の塊だ。
これに何をするかと言えば、ウイスキーをかける。
銘柄はニッカの「伊達」。宮城県限定販売の1本で、宮城峡蒸溜所のモルト原酒にグレーン原酒もブレンドし、甘さとまろやかさが際立つ仕上がりだ。その甘いマスクのイケメンぶりは、「ウイスキー×ツマミ210番勝負」の(5)を参照されたい。ちなみにその企画で「伊達」に合うツマミ第2位にランクインした(というか私が独断で2位にした)のが、何を隠そうプリンだったのである。
プリンにかけるウイスキーは、「余市」や「ラフロイグ」や「タリスカー」といった塩気、薬品感、スモーキーフレーバーが特徴の銘柄だとちょっときつい。「プリンに醤油をかけるとウニ」のような結末にはなるかもしれないが、今回求めているのはそういうゲテモノ的な危うい橋を渡るスリルではない。必要なのは、ただこのお子ちゃまの舌を持つオッサンを心底満足させる、その一点である。
その点、「伊達」の二枚目な甘さは実に適任。ダル甘で最高なプリンが、いっそうダルダル甘々になって最高最高なのだ。しかし単純に甘いだけではない。ウイスキーを垂らしてプリンをスプーンですくい、口元に運ぶとき、そして口に入れてから呑み込む間際、鼻腔をそろそろと上ってくるアルコールの臭気が満ち足りた幸福感を運んでくる。
これを楽しむためにも、やはりかけるウイスキーはストレートでなくてはならない。というよりも、ストレートの「伊達」とプリンを交互に口にすればよい。……あ、それだと「酔い足し」の趣旨から外れるのか……。まあ何にせよ、甘めのウイスキーならプリンへの「酔い足し」はハマるだろう。基本的にはメープルシロップが合うものなら合うと考えて良いので、ワッフルやパンケーキ、フレンチトーストなんかにもこの「酔い足し」技法は使える。
まあ私なら、右手に業務用のホイップクリームの絞り袋、左手に「伊達」のボトルを持ち、それをあんぐり開けた口の真上に持ってきて……、心ゆくまで……(恍惚)……。はい、読者諸氏が引いてるんで、やめましょうね。早く大人になりたい! 編集長Dでした。