焼き芋という言葉のなつかしい響き
焼き芋。
五百円玉を握りしめて焼き芋の屋台を追いかけた幼少の日々から幾星霜、都会に移り住んだ筆者は、拡声器から響くあの呼び声を長らく聞いておりません。焼き芋という言葉がかき立てるイメージは、幼い頃のさまざまな記憶と分かちがたく結びついています。なつかしき焼き芋。いまは遠い焼き芋。ああ、あなたはどこへ行ったのか。
思い立ったが吉日
そういうわけで、スーパーの野菜売り場で見かけたさつまいものコーナーに突撃し、
購入して、アルミホイルにくるみ、魚焼き機に放り込みました。
文明ってすばらしい。
しかし、ここは「呑兵衛&呑み姫のためのしずるメディア」であります。いたずらに焼き芋を食べただけではお話になりません。
そういうわけで、ドン!
近年、焼酎の売り上げ高トップを維持する霧島酒造の「黒霧島」をゲットしました。目には目を、芋には芋を。そして芋焼酎といえばこれであります。
さて肝心の焼き芋の方はというと、じっくり90分ほど焼き上げて、できあがりました。
どうなんだ? 若かりし日の俺よ。まさか自分で芋を焼いて、それをアテに焼酎を飲もうとは思わないだろう? 人生は楽しいことがいっぱいだ。がんばれよ。
やっぱり屋台のじゃないとダメなのか?
で、食べてみるのですが、ちょっとぼそぼそ。つまり、やや失敗しております。いや、おいしいんですが、焼き芋に期待していたあのねっとり感がほとんど出ていません。
ただ、まさかフライパンに小石を敷き詰めて赤外線で焼くわけにもいかず、家庭でできる焼き芋の限界というのはこのあたりなのかも、という感じもします。
うーん。
黒霧島が奇跡のカバープレイ
納得いかないまま「黒霧島」のロックを一口。
そこで気づきました。
この組み合わせ、かなり美味。
うまく焼けていないせいなのか、どちらかというと天麩羅にしたときの中身の芋のような味の焼き芋の風味が、焼酎を口に含むと一気に華やぎます。
お酒そのもののとろりとした甘みも、芋の熱で暖められたことで現れてきます。
また、これは都市ガスのせいなのかもしれませんが、家庭で調理したときのなんともいえない芋のくさみってありますよね。食べていると次第に感じられてくる、皮のあたりの。あの匂いが、黒霧島の香りによって相殺されて、いくらでも入っていく感じになります。
スゴいぞ、焼き芋。スゴいぞ、黒霧島。
もしかしたら家でやった焼き芋のほうが美味いかもしれないくらいです。
一本がかなり大きいので、途中で変化を出してみようと砂糖や塩をつけて食べてみましたが、何もないほうがお酒を邪魔しなくて良いです。
陶然としたまま食べ続けていると、女性の二の腕ほどもあった焼き芋があとかたもなく消え、黒霧島のボトルの中身は半分ほどに減少しました。
一年のうちでも最も寒さが厳しいこの頃には、ぴったりの飲み方ではないでしょうか。もう凍えて仕方がないという位になったら、焼酎をロックからお湯割りに切り替えて、再チャレンジしてみます。