酒造りに欠かせないのが杜氏。同じ材料(米、酵母)を使用しても、それを操る杜氏によってお酒は全く違うものとして生まれる。古来よりの熟練の技が、その酒蔵の杜氏によって長年受け継がれてきた。彼らは、その技を彼らなりに磨き上げる。
杜氏は男の仕事。また、この技は日本人だけのもの……。
元来はそうであったが、年月が経つにつれ、その様相は変わってきた。現在、杜氏は日本人男性限定のものではなく、女性も、そして外国人までもがその技を駆使するようになった。
長野県の川中島にある『酒千蔵野』に女性の杜氏がいる。千野麻里子氏。酒蔵の一人娘として生まれ、現在杜氏として活躍されている。この日本酒「MARI」は彼女の名前を取って名付けられた。
ラベルは、女性を思わせるように実に優雅。早速いただいてみよう。
このお酒、薄っすらと白く霞んでいる。引き込まれるような美しさだ。一口いく。旨い!わずかに炭酸を感じる。芳醇な香りと味が淡くはじける。優しいフルーティーさだ。飲みやすいお酒である。素材の持つ優しい旨みだけが引き出されている。そんな感じのする酒だ。
それでは料理を合わせよう。このお酒には優しい料理があうと思う。そんなメニューを選んでみた。一品目は「湯葉ポテトサラダ」。
マヨネーズを抑えたポテサラを湯葉で包んだ繊細な料理。薄味のポテサラなので、湯葉の味がかき消されずに浮かび上がる。「MARI」は上手にこの料理を包み込み、素材と見事に融和する。湯葉がフルーティーな香りに乗り、のどの奥に流れ落ちる。優しくフルーティーな酒は見事に料理を纏め上げる。
二品目は「水茄子」。採れたての新鮮な水茄子に酢橘をあしらっただけのシンプルで潔い料理。
実にみずみずしい!まるでフルーツをいただいているよう。素材がすばらしいだけに、このシンプルさがあうのだろう。
「MARI」をあわせる。芳醇な香りが、水茄子を包み込む。そして、決して素材の旨さを壊さない。「MARI」の旨さと、水茄子のみずみずしさ、そして酢橘の香りがハーモニーを奏でる。
やはりこのお酒は、優しい料理にマッチする。女性が子供を優しく包み込むような愛情……、そんな優しさとおおらかさを感じる酒だ。