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【意外と飲み比べしたことないかも?】ワインでも日本酒でも焼酎でもない、「ジン」をストレートで五発飲み比べてみた&おすすめツマミも考えてみた

「アタスン氏は身を持することは厳格であった。独りの時は葡萄酒のかわりにジンを飲んで我慢した〔…〕」――スティーヴンスン『ジーキル博士とハイド氏』

一晩にバーで飲めるのが四杯から五杯だとして、まず駆けつけの一杯は大好きなジン・トニックを注文します。二杯目は隣の客に格好をつけるためにマティーニを。三杯目は考えるのが面倒になってジン・トニックを。四杯目はずいぶん酔ってきたので口直しにギムレットを。五杯目からは正体を失ってジン・トニックを飲み続けます。

こうなると地元のバーで「ジン・マニア」として認められるようになり、ふと気が向いてビールなど飲もうものなら、周囲から浮気者とクサされることになります。それはべつにいいのですが、恥ずかしいことに、私はそんなにジンに気を遣ったことがありません。銘柄もカクテルの作り方も指定なし。

というのは、無意識的に「ジンってそんな違わないでしょ?」と安く括っているからなのです。内省して、これではいけないと思いました。こんなにお世話になっているのだから、姿勢を正して、ジンとまっすぐに相対しなければならない。

そう、まっすぐに。ストレートで。ジンを五発飲もう。そう思い立ちました。そんなわけで、「ジンを、ストレートで、五発飲み比べてみた。」と題し、五種の銘柄を紹介します。それでは、さっそく行ってみましょう。

1.Beefeater(ビーフィーター)

言わずと知れたドライ・ジン。指定せずにジンベースのカクテルをオーダーすると、だいたいこの銘柄が出てくる印象です。先鋒として飲んでみました。

口をつけた印象は、驚くほど飲みやすい。まろやかでクセがない。強めの風味をもつジンはカクテルでも香りが立ちますが、ストレートだと強すぎて、口にさわるんじゃないかなという印象がありました。しかし、常温でサーヴしてもらったこともあってか、柑橘類の爽やかさとボタニカルな香りが鼻孔から抜け、かすかな甘みを口内に残していき、後味は実にすっきりしています。

まったく角がないので、ドライフルーツやチョコレートによく合いそう。逆に、塩気のあるものとは喧嘩してしまうかも、と思いました。

2.Tanqueray(タンカレー)

口をつけた瞬間、ちょっと意表を突かれました。いつもカクテルのベースにして飲むときは、ビーフィーターよりも甘みがあると感じていたのです。ストレートで飲んだ印象はまったく違いました。堂々とした強さのある香りで、かすかな酸味があります。

この不思議を探ろうと、ほんの数滴ずつ口に含んでみると、いやはや、確かな甘みが出てきました。口をつけるたびに味が変わるとまでは言いませんが、味のレイヤーが何層も重なっていて、どの部分が前に出てくるか、わずかな飲み方の差で変化していくような印象です。

この繊細さを壊したくないので、なにもつままずに飲むのが一番良いとは思いますが、あえてぶつけるなら、香辛料の効いた料理か、アイスクリームやレーズンバターといった強い甘さのあるものが面白いかもしれません。

3.Bombey Sapphire(ボンベイ・サファイア)

甘い!ドーンと来ます。ビーフィーター、タンカレーと比べて、香りはそこまで強くありません。甘みがはっきりしていて、透きとおった感じ。クセがなく、すいすいと飲めてしまいます。これ、かなり危険かもしれない。感覚としては、すごくいい焼酎を飲んでいるときと近いです。おいしいんだけれど、性格は控えめ。

口に含まずに香りを確かめると、たしかにボタニカルの玄妙な香りがあるのですが、飲んでみると甘みのなかにさっと消えていく。口にさわらないのはいいお酒の証拠ですが、ストレートという条件つきだと、このジンが一番かもしれません。

あまりきつい味のものと合わせると、このジンの良さを邪魔してしまいそう。塩を振っていないナッツや、ドライレーズンなんかをつまみながら飲むのが良いでしょう。

4.Gordon’s(ゴードン)

パンチのある味で、ボンベイ・サファイアの甘さを味わったあとだと、ちょっと面食らう感じがあります。いま思うと順番を間違えたかも。最初かその次に飲めばよかったかもしれません。飲み進めると松脂っぽい香りがだんだんとはっきりしてきて、味はシブいものの雑味がなく、すっきりとしています。

辛口と言えばいいのでしょうか。ごつごつとした男らしさを連想させる硬派なジンです。

かなりドライなので、適度な塩味と旨味があるつまみがよく合いそう。生ハムやチェダーチーズなんかと合わせるといいかも。全体から感じられる絶妙な場末感を楽しむために、柿の種やあたりめなんかもいいかもしれません。

5.Tanqueray No.10(タンカレー・ナンバー・テン)

このあたりでずいぶん酩酊してしまったので、続きは自宅にて楽しむことにしました。わが家の冷蔵庫に鎮座する、秘蔵のタンカレー・ナンバー・テン。なんというか、別格の味です。申し分のない香りと、複雑に組み合わされた甘さ。じつは、ふだんジン・トニックばかり飲んでいる筆者も、これだけは割らずに飲みます。

口いっぱいに広がる香りと甘さに陶然としてしまいます。これはもう、何もつままずにそのままで。これ自体がひとつの味として完成している印象のジンです。

というわけで、比較的スタンダードな五種のジンを飲み比べてきました。ジンと一口に言っても種類ごとにさまざまな性格があり、それぞれに奥深さを見せてくれました。ストレートというのも、中々いいものですね。

惜しむらくは、タンカレー・ナンバー・テンを注いでいるあいだに赤い封蝋を模したバッジが外れ、踏んづけて折ってしまったこと……。写真が正面からでないのは、そんな理由です。どうしようもありません。ジンのアルコール度数はだいたい40から47度。酩酊にだけは気をつけましょう。