♪海の青さと空の藍~……沖縄を歌った『芭蕉布』。口ずさむたびに、沖縄の風景を夢想することができます。泡盛と言えば日焼けした海の男というイメージがありますが、アルコール度数が30%の泡盛が多い中、「ゆら」は25%とちょっと抑え気味で、柔らかさを感じます。沖縄の海と空を思わせる藍色のビンや「ゆら」というネーミングは、女性の購買層を意識しているようです。
太平洋と東シナ海の境に位置する宮古島。その北西4kmに浮かぶ伊良部島へは、宮古島の平良(ひらら)港から船で渡ります。サンゴ礁の石灰岩が隆起してできた島で、ダイビングスポットとしても名高く、全国からダイバーたちが訪ねてくる憧れの島です。
島には2軒の酒造所があり、「ゆら」を出す渡久山酒造はそのひとつです。日本の渚100選にも選ばれた佐和田の浜で知られる伊良部町佐和田にあります。創業は1951年。主力の銘柄は「豊年」。三代目の奥さんが杜氏を務めています。“アンナ”が作る泡盛です。「アンナ」は宮古島周辺のお国言葉で「お母さん」の意味。「ゆら」の女性的な優しさは、アンナの気立ての良さからかもしれません。
多くの泡盛同様、「ゆら」もタイ米を使用しています。それは価格の安さもありますが、泡盛の命である黒麹菌には粘り気のないタイ米が適していると、試行錯誤の末にわかったからです。また、島の作付面積でいうと米作はサトウキビ作より少ない為、地産米を原材料として潤沢には使えないという事情もあります。
青いビンの「ゆら」を茶碗に注いだら、伊良部島の海の青さと空の藍を夢想して、アンナの優しさとともにぐっとあおります。グラニュー糖をこそっと入れてもグッドです。
『芭蕉布』は「♪浅地紺地のわした島うちな~」で歌い終わりになります。「浅地紺地」は藍染の濃さを表す言葉で、沖縄では藍は濃いほど美しいとされています。「浅地紺地」は染めの濃淡に女と男の機微を重ね合わせた、愛の色合いです。そう思い起こして、はたと「ゆら」の青いビンはきっと「浅地紺地」の色なのだと納得しました。
豚肉、昆布、ゴーヤ。沖縄を夢想すると浮かぶ食材です。近くのスーパーで緑鮮やかなゴーヤの一山に目が留まりました。コーナーの周辺は爽やかな香りがします。冷蔵庫にあったブロックの豚バラ肉、木綿豆腐、麩など料理本にあるような材料で“教科書通りの”ゴーヤチャンプルを作ります。「チャンプル」は「炒め物」の意味。有りものを何でも放り込んでしまっても、それは立派なチャンプルです。
<作り方>
【1】まずは木綿豆腐。パックの蓋の上下に包丁を入れ、まな板に立てかけ豆腐の自重で水気を抜いておきます。
【2】続いてゴーヤを縦に半分に切って、スプーンで種を取り、5ミリ幅に切ります。かじってみると苦いので、水にさらして、苦みを取ります。
【3】ブロックの豚バラ肉をゴーヤと同じ大きさに切り、少々強めの塩をします。
【4】玉ねぎを櫛切りにして、麩をお湯で戻します。
【5】豚バラ肉の両面をよく焼き、ボウルに上げます。カリカリにしても美味しいですね。
【6】木綿豆腐は賽の目でも、フライパンに一丁をのせヘラで崩してもOK。きつね色になるまで焼き、ボウルに上げます。
【7】そして玉ねぎ、ゴーヤ、麩をまずチャンプル。油が行き渡るまで炒めます。
【8】豚バラ肉、きつね色になった豆腐を加えます。
【9】中華スープの素、醤油、そして「ゆら」を少々。泡盛は香りづけに何が何でも必要です。
【10】最後に溶き玉子を回し入れて出来上がりです。
島人(しまんちゅ)のアンナの味ですね。でも、最近のゴーヤは以前のものよりも苦みが軽くなった気がします。とはいえ、噛むほどに存在感をしっかり出してくるゴーヤ独特の風味。それをアテに「ゆら」を傾けます。芳醇な古酒(クースー)も深い味わいがあっていいのですが、「ゆら」は新酒でも角のない柔らかな口当たりです。ほろ苦いゴーヤをそっと受け止めて、心地よいハーモニーを奏でます。肉野菜炒めやレバニラ炒めとどこか違います。それは「ゆら」の母性、アンナの愛のなせるわざ、と言ったところでしょうか。