【代々木公園/代々木八幡のフレンチ酒場でマリアージュ三昧?】グラスワイン約30種×カニクリームコロッケ・トリュフカルボナーラ・鴨肉の鉄板焼き

東京メトロで来れば「代々木公園」、小田急で来れば「代々木八幡」だ。二つの駅はとても近いが、別の駅だし、別の路線だ。こんなに近いのに。東京はすごいなあ、と、こういうときに思う。田舎じゃこうはいかない。田舎の駅とは「同じ土地にいくつもある」ものじゃない、駅は「ある」か「ない」かだ。

そんな前置きを心の中でつぶやきながら、地方出身者の編集長D、代々木公園の(便宜上「公園」の方に統一します、すみません「八幡」さん)とあるお店のドアを開けた。店名を聞けば「なのるなもない」と言う。まあそうおっしゃらずに、と目を移すと本当に「nanoru namonai」と書いてある。ははあ、さようでしたか。

そんな「nanoru namonai」さん、オープンなカウンターとテーブル席がいくつかの気軽なフレンチ酒場だ。カウンター越しに見えるキッチンでは、シェフが鉄板とにらめっこ。そう、こちらのお店、鉄板焼きで供されるお肉が、お・に・く、が、文字通りのテッパンというか、もう決してハズさない、最高のディッシュ!なのだ。

そして「バッカスの選択」としては忘れちゃいけない、アンフォーゲッタブル、お酒、お・さ・け、であるが、なんといっても目を引くのがグラスワインの種類。フツーね、あーた、グラスワインったら「赤3つ、白3つ、あ、ロゼもあるのね、どうしようかな……」の世界ですよ。が、ここには常備しているものだけでおよそ25種、+αでその時々のゲストワインを合わせると、だいたい30種ぐらいは常にグラスワインの用意がある。常に、というのがすごい。

「nanoru namonai」さんとしては、「いろいろな個性のワインをできるだけ楽しんでほしい」そして「他ではあまりやってないことなので」と始めたこだわりなのだそう。フレンチ酒場なので王道フランスワインが中心かと思いきや、イタリア、ドイツ、スペイン、そしてアメリカ、オーストラリアと、エリアもキャラも本当にふり幅のあるワインがズラリ。それが気軽にちょっとずつ味わえる。女性のお客さんには嬉しいはず、と思ったら、実際に好評なのだとか。

カニクリームコロッケ VS 自然派無添加ワイン

カニクリームコロッケ VS 自然派無添加ワイン

これだけグラスワインがあると、オーダーした料理ごとに合わせる銘柄を変えていく……なんて実に乙でシャレオツで通な飲み方ができてしまう。ボトルしかないとこうはいかない。よほどの酒豪か、大人数で寄ってたかるかしないと、二つ目の銘柄に進めない。

なので、人として乙でシャレオツで通なのかは怪しいが、編集長D、料理ごとにワインを合わせてみることにした。まあ実際には、お店の方に料理ごとにワインを「合わせていただいた」と言う方が正確だが。

まず登場いただいた一品がこちら、「カニクリームコロッケ」! 最初から真打ち・鉄板焼きを頼むなんて野暮なことはしませんよ、ええ。しかし、もちろんこのコロッケさんも前座のレベルをはるかに超越した美味であることは確かで、もう論より証拠、ご覧いただこう。

……サクッ……。

……トロットロ……。

もうね、カニがね、たっぷり。この世界のすみずみまでがカニで満たされている感じ。ものすごい幸福感。濃厚な幸福感。

で、迎え撃つワインがこちら、「ディナボリーノ」。

イタリアの白ワインだが、ご覧の通りの琥珀色が面白い。酸化防止剤無添加の自然派ワインということで、この日のお店の「今日の一押し」リスト最上段にも堂々のランクイン。

香りは上品な中にも素朴さを感じさせる落ち着いたもので、個性の強そうな見た目ほどとんがってはいない。が、口に含むとやはり「主張」があるようで、まず舌がちょっとだけシビレる。ジンジンしているところにブドウの甘味がジワッと染みてきてうまいが、ただ甘いのではなくけっこうな渋味を伴っている。

この渋味、これがカニクリームコロッケの濃厚なコクといい距離感でマッチする。甘々なワインだとどっちもひたすら甘々になってアママママってのけぞるしかなくなるし、辛くてキレるワインではおそらくただケンカをして終わるのではないか。素晴らしいマッチング。グッジョブ。

トリュフカルボナーラ VS 仕事のできるフランスの白

トリュフカルボナーラ VS 仕事のできるフランスの白

続いてご入場いただいたのは「トリュフカルボナーラ」。「トリュフ」も「カルボナーラ」もわかるけど「トリュフカルボナーラ」って何だ?パスタか?と思ったらメニューに「パスタじゃないです」と先回りしてメモが書いてあった。じゃあ何なんだ?

これなんだな。

カルボナーラソースの海に香り高くたゆたうトリュフの舟。沈んでいて見えないが中に温泉タマゴが潜んでいて、それを崩していただく。……想像したまえ。その先にどんな出来事が口の中で起こるかを。どうだね。想像だけで酒が一杯飲めそうだろう。

これに合わせたワインは、「リムー・ブラン・ペイルジャック」。

シャルドネがベースのフランスの白。料理が濃そうなのでそろそろ赤?と思った方もいるかもしれないが、ノンノンノン、この白ワインが正解。なにより白特有のスキッとした華やかな香りがあるのがいい。

というのも、この華やかさ、トリュフが放つ香りの華やかさと素晴らしく響き合うのだ。たぶん赤だとトリュフを「受け止める」感じになって「響き合い」にはならない。

しかしただフワフワと華やかなだけではないのがこのワインのいいところで、口に入れてみると思いのほか「冴えている」というのか「芯がしっかりしている」というのか(ワイン用語でいう「ミネラリー」ってこういうことなんだろうか)、つまり軽々しくない。

なので、トリュフのもったり感やカルボナーラのまったり感を向こうに回しても、一歩も引かずにわたり合える。強めに効いている胡椒のピリリ感が乗っかってきても、なんら動じない。それでいてトリュフの甘さだけはきちんと引き出してくるという、とんでもなくいい仕事をする「リムー・ブラン・ペイルジャック」。グッジョブ。

フランス産シャラン鴨 VS タンニンのルージュ先生

フランス産シャラン鴨 VS タンニンのルージュ先生

ではお待ちかね、鉄板焼きのお・に・く。「nanoru namonai」さんでは牛・豚・鶏はもちろん鹿や鴨まで、部位も様々なお肉が鉄板焼きのために控えていて、単品と3種・5種・7種盛りのセットがオーダー可能。

今回は単品で「フランス産シャラン鴨」、カモン!

いやもうシェフの焼き方が絶妙というのもあり、柔らかいこと柔らかいこと。そして噛むとジュワッとジューシーな肉ジュースがクチジューにジューマンする。しかしこのお肉、ジューシーだからといって甘めなのかというと逆で、ほろ苦、渋々、鉄分感がきっちり立ってくる、なかなかに骨太な味なのだ。

対するワインはついに赤!「マルキー・ロマーネ」。

フランスの赤ワイン。メルローが主体とのこと。香りはフレッシュで素直な果実感がある。これは赤だけどスルスルいける系か?と口に含んでみると、ギュギュっとくるタンニンに思わず顔が渋くなる。おそらく味だけでいけばもっとタンニンの効いた赤ワインなど山ほどあると思うが、香りが優しそうなだけにギャップでキツく感じる。

だが、このキツさが大正解。単純明快、鴨の骨太な味に負けないのだ。負けないというか、よく馴染む。鴨の肉汁の鉄分感とワインのタンニン、ほろ苦さと渋味、どこをどう切っても親和する。最初からこれを計算してつくられたワインなのか? シャラン鴨の体を流れている血液が実はこのワインなのか?……んなこたぁないが、しかし本当によくマッチする両者。グッジョブ。

ということでグラスワイン3種と料理3品のマリアージュを堪能した編集長D。やっぱりボトルではこうはいかない。ちなみに「nanoru namonai」さんではもちろんビール、ワイカクテルなどグラスワイン以外のお酒(&ノンアルコール飲料)も楽しめる。新しいマリアージュの発見を目指し、いろいろ組み合わせを試してみるのも乙でシャレオツで通だと思う。