【普及価格ワインの実力チェック】オーストラリアの赤ワイン「ワラビー・クリーク・シラーズ」は「羊たち」とのマリアージュを楽しませてくれるのか?

むし暑くジメジメした梅雨のシーズンが続く。夏バテで体が悲鳴をあげないか心配になる。こんな時、夏バテ防止の為にいただくのが「羊肉」。ミネラルが豊富で、鉄分やビタミンBが多く含まれる。スタミナ作りにはもってこいの食材。しかし、匂いなどちょっと癖があるのが気になるところ。こんな羊肉料理を美味しくいただくための切り札がワイン。ワインは羊肉料理の癖を美味しく変身させてくれる。

ワインは素材の美味しさを引き出す食中酒である。いただくワインによっては料理の満足度が変わってくる。だからワイン選びのポイントは料理との相性の良し悪しとなる。ところがワインの銘柄は星の数ほどあり、高級なものから普及価格のものまで種々様々。選択が実に難しい。

ここでひとつ疑問がわいた。

高級ワインはそれなりに美味しく、食材の持ち味を引き出してくれると思うが、はたして普及価格のワインでも料理とのマリアージュを充分に楽しめるのだろうか?

という事で、普段口にすることが多い「普及価格のワイン」と「羊肉料理」の相性を確かめてみることにした。

オーストラリアワイナリーの普及価格商品、品種はシラーズ

今回、羊肉料理に合わせる普及価格のワインは、オーストラリアのワイナリーが作った赤ワイン「ワラビー・クリーク・シラーズ」。何とこのワイン、市販で1000円前後と驚きの安さ。しかも名前どおり品種はシラーズ。一般的にシラーズの特徴は重めのタンニンとスパイシーで濃厚な果実味があるところ。このワインはどうだろう?

まずは、そのままいただく。んん! 実に軽い! 確かにタンニンとスパイシーな果実味は仄かに感じるのだが、本当にシラーズ?と拍子抜けするほどライトで飲みやすい。はたしてこのワインは癖のある羊たちを丸め込む事ができるのだろうか?

まずは、マトンのスペアリブとのマリアージュ

まずは、マトンのスペアリブとのマリアージュ

マトンのスペアリブにかぶりつく。美味い! 香辛料が食欲をそそり、肉そのもののお味がたまらない! 羊臭さはさほど感じない。そこに、ワインを流し込む。思った以上にいい。羊の匂いが控えめなので、軽めのタンニンと果実味でも羊肉を見事に包み込める。これはベストマッチだ。

羊のブリックスは少々手強そうだが……

次にいただくのは、マトンの挽肉で作ったブリックス。羊の挽肉と半熟卵入りの大きな餃子と思えばいい。

早速真ん中よりナイフで割る。卵の黄身が流れ出る。卵好きにはたまらない。一口頬張る。それほど強くないが、マトン独特の香りが口中に拡がる。そして、卵の黄身がその香りと味を和らげる。ワインを口に含む。これも違和感がない。羊の香りが卵のおかげでマイルドになっているので、軽めのタンニンが特徴のワインにほどよくマッチする。この組み合わせもアリだ。

最後のシシカバブは難敵である

最後のシシカバブは難敵である

最後に合わせるのはシシカバブ。数多くの香辛料を使い、マトンの挽肉を焼き上げた逸品。一口いただく。個性豊かなスパイスの香りと、マトンの匂い・味が口中に充満する。今回の料理の中で一番「羊」を感じる。これはいい! ジューシーで香りも好きな部類だ。

さてワインを合わせてみる。シシカバブのスパイシーさとその匂いに若干押され気味ではある。ワインにもう少し強めのタンニンと香りが欲しい気がしないでもない。だがシシカバブの方が「主役」という位置づけで考えれば、「ワラビー・クリーク・シラーズ」のすっきりした果実味と仄かなタンニンが出しゃばることなく、羊肉を上手に引き立てているとも言える。順応というのか融合というのか、これはこれで美味い。

以上3品の「羊たち」とのマリアージュ、微妙なところだがひとまず合格点をつけたいと思う。「ワラビー・クリーク・シラーズ」と「羊肉料理」の組み合わせは、アリ・ナシでいえばアリ、だ。

普及価格ワインのマリアージュの成否を決めるものとは?

今回選んだ普及価格ワインは、シラーズでも軽く飲みやすい部類。羊肉料理との組み合わせもまずまず満足できた。しかし、濃厚な羊肉料理には少し物足りない気がしたのも事実。例えば、シラーズ品種のワインでも、もっとタンニンの重い濃厚でスパイシーなものだったら、「シシカバブ」にも充分張り合えただろう。

ただ、それが1000円前後で手に入るかどうかはわからない。シラーズの特徴を充分に、そして美味しく醸し出すワインとなると、高級ワインの仲間入りをしてしまうかもしれないからだ。今回のテーマ「普及価格ワイン」と「羊肉料理」の組み合わせから外れてしまう。

となると、結局のところ飲み手が満足の重点をどこに置くかが重要ということになる。普及価格ワインでも、料理との相性で種類を上手く選べばマリアージュはもちろん楽しめる。だがより良い組み合わせを追求していくと、ワインへの要求はきりがなくなる。そして普及価格の枠を超えてしまい、値段がそれなりの高級ワインになってしまう。

「普及価格ワイン」によるマリアージュの成否の鍵は、ワイン自体の実力もさることながら飲み手の満足度のハードル設定に尽きる?のかもしれない。……という、しごく当たり前の事実にたどり着いたところで、今夜はお茶を濁すとしよう。