編集長Dである。そして「おでん」である。寒さも厳しくなってきたこの師走に、実にふさわしいネタ。……何?なんのひねりもないじゃないかって?いつもの馬鹿馬鹿しい実験に対する気構えはどうしたんだって?急に自分の肝臓が可愛くなってしまったのかって?
見くびるでない。おでんをつまみに、ただ酒を飲もうっていうはずがないじゃないか。ハイボールに生卵を入れて、冷奴に赤ワインをかけて、チーズの器でウイスキーをすすってきた男だぞ俺は。
今回のネタはおでんのタネではなく、その「出汁」だ。これをいろんな酒にチョロチョロチョロリと足して混ぜて、果たしてうまくなるのか、飲めたもんなのかを検証する。まあ「日本酒に出汁」というのは既に通な飲み方として確立されているのだが、その黄金律が他の酒にも適用できるのか試してみようじゃないか、というわけだ。相変わらずの無駄な使命感だ。
用意した酒はビール、赤ワイン、ジン、梅酒、そして日本酒。では検証結果を第5位からランキング形式で発表していく。
まあね、そりゃそうなんだよ。冷静に考えればね、合わないよね。別々に味わうというなら、まだ希望もありそうなものだが……。
出汁、入れちゃうからね。チョロチョロチョロリ。
で、飲むとどうなるか。って、こうなるよ!
何というか、ワインと出汁が、物理的には混じり合っているのだが、味としてはちっとも混ざらない。うまいこと融合しない。それぞれが、ただそれぞれのまま風味を悪化させていく。土俵上に力士が二人いるのに、互いに空気と独り相撲を取るような、謎の競技にたとえられるかもしれない。何の面白味もない。実験シリーズでも久々の救いの無さだ。
「つぶし合い」なのだ。ひたすら良さを消し合っている。ワインに至っては、出汁を入れると一瞬で酸化したような感じに堕落する。飲み始めの入り口もだめ、後味もだめ。ということで堂々の最下位。
これはねえ、実はひそかに期待していたんだけどねえ。うーん。思ったようなパフォーマンスにならなかった。残念である。
これもワイン同様、いまいち融合した感じがない。とはいえ互いをつぶし合う全面戦争には発展せず、ひたすらぼんやりと個性を失っていくだけ……というのが救いなのかどうか。
入り口ではまあまあ梅の風味が引き立って感じられる。だがその後がいただけない。どうも薬品っぽさが出てきてしまう。出汁が持っているはずの旨味やコクも後退してしまって、全体に鈍い印象。どうにもすっきり垢抜けない。ということで筆もさほど乗らない。
先に言っとくけど、これはね、もっと筆が乗らない。というのも、良くも悪くも期待通りだったから。
つうか、普通におでんと酒で楽しんでもいいんだけども。
出汁をチョロ足し。で、キュッといく。まあやっぱりうまい。
出汁の旨味がぐぅーっと深くなる。そして酒が入るんで、後味で余韻がフワッと鼻に残る。もうね、何も裏切らない。うまい。でも今回は、そんな意外性の無さも考慮して「良くも悪くもない」第3位にさせてもらう。
日本酒にはなかった意外性も加味すると、こっちが第2位。とはいえ、一部の人には意外ではないかもしれない。というのも「出汁で旨味をとったビール」は既に存在しているからだ。知っている人には「さもありなん」といったところだろうか。
しかしこの実験は「市販の缶ビールにコンビニおでんの出汁を入れる」というもので、「出汁の風味をきかせたビールを新たに開発する」ことに真剣に取り組まれていた方々からすれば全く悪ふざけ同然の所業かもしれない。そこは完全に申し訳ない。そしてこんな実験に用いてしまったヱビスビールさんにも、完全に申し訳ない。
などと謝罪したそばから、こうですよ。チョロチョロ。そして飲む。
当然だがぬるいので、入り口としてはビミョーです。はい。ただそこからの挽回が半端なくて、ビール自体のコクと出汁のコクが、最高レベルで調和を遂げる。この一体化は見事。配分としてはビール3~4に出汁1とか。出汁が思いのほか主張が強いので、1対1にしてしまうと少々コクが深くなり過ぎて味がまどろっこしくなる。あと後味で立ってくる何とも言えない甘い余韻も不思議と心地よい。たくさんの量をグビグビはいけないが、日本酒的にちびちびやるならアリかもしれない。
そしてトップは実験シリーズ初登場のジン。これはねえ、ほんとに不思議。
ストレートで注ぐと、すぐに特有の香りが立ってくる。この香草感、好き嫌いが分かれるところでもある。
そこにおでん出汁を投入。少量だとジンの香草感に全然勝てない。配分としては、ジン4に出汁5とか、出汁が多いくらいでいい感じになる。
写真のおじさんは鼻を曲げているが、最初の香りは「何だこれ」という感じ。嫌なニオイという意味ではなくて、「どっかで出会ったニオイだ、何だっけ」ということ。で、やがて思い至る、「あ、柑橘だ」。
そう、柑橘の風味がすごい出てくる。実に不思議。ジンの香草っぽさが少しトーンダウンして、そこに出汁の旨味と少々のしょっぱさが入ると、突然味がギュッと引き締められて爽快感のある柑橘フレーバーになる。イメージとしては柚子胡椒なんかが近いかもしれない。これはねえ、全員が全員「うまい!」と絶賛するものではないかもしれないが、ちびちび舐めているうちに気が付くとクセになっているというか……、ほんとに不思議なうまさがある。
ということで、以上「おでん出汁と混ぜてうまい酒選手権」。この馬鹿馬鹿しさに共感する稀有な感性と健康な肝臓をお持ちなら、諸君もぜひ試してみてほしい。
新しい実験の様子は今後もちびちびと「バッカスの選択」公式Facebookページ https://www.facebook.com/c2h5oh.jp &公式ツイッター https://twitter.com/c2h5ohjp で発信していく(はずである)ので、ぜひチェックされたし。