【中国料理の名店で教わった】これを体験したら後戻りできない! 紹興酒に目覚めてしまう飲み方&マリアージュ(1)

紹興酒。中国のお酒と聞いて、多くの人がまず思い浮かべるだろう琥珀色の液体。しかし、かなりの呑兵衛&呑み姫でも、「一番好きな酒」に紹興酒を挙げる人はそう多くはないかもしれません。中華料理を食べに行くと飲むし、もちろんおいしい、けど「今夜は何を飲もうかな」というときにパッと候補として浮かぶかというと、うーん……。という、何とも距離感の難しい酒。それが紹興酒。

が、この飲み方を“体験”すると紹興酒のイメージが変わる、そのうまさに開眼してしまう、後戻りできません、という話をとあるお店で聞いてしまった編集長D。そしてもちろん“体験”してしまった編集長D。いやもう、開眼しました。今のDはもはや、あの日のDではありません。そのお店とは、日本を代表する中国料理の名店、南国酒家さんです!

変化し続ける“日本の”中華、それが南国スタイル

今年で創業55周年、全国でお店を展開する南国酒家さん。今回はその原宿本店にお邪魔しました。お相手をしていただいたのは、株式会社南国酒家の代表取締役社長・宮田順次さんです。お店のコンセプトに掲げているのは「日本の、美味しい中国料理」。本格中華一直線と思いきや、「日本の」というのは意外な気もします。何か秘話があるんでしょうか?

「これは初代の料理長から脈々と受け継がれてきた思い。中国の長い食の歴史をそのまま受け継ぐのではなくて、何か自分たちで新しい価値を付けて出したい、という人でした。中国料理は世界各国どこに行っても食べられますが、この日本で、日本の食材を使って作るからには、日本でしかできないものを確立したいという気持ちがずっと続いているんです。日本人の繊細な感覚、食材の扱い、味付け、四季を感じる心。そういう感性を活かして、日本人にとっておいしい中国料理をどう作っていくか。そこを突き詰めていきたいですね」

南国酒家さんでは、ここ数年「おいしいものにっぽん」と題して、各都道府県の食材、地のものをクローズアップする企画を展開中。これまでに15県ほどとタイアップして、各地の食材をメニュー化して提供してきました。

「“日本の”ということを謳う以上は、もちろん私たちが日本の食材を知っていないといけない。なかなか東京に来ないような食材まで、津々浦々、知り尽くすのは特別なことではなく当たり前のことという思いで始めた企画です。私や料理長も一緒にいろいろな土地に行って、見て、食べて、人に聞いて、さまざまな素材に触れてきました。地方の食材を研究することは社員の勉強にもなるし、お客様に料理をお出しするときに伝えられるストーリーにもなる。今は、おいしくてサービスがいいレストランはいくらでもあります。だからこそ、ストーリーや理念を通して選ばれるお店になっていきたいと考えています」

こうして生み出される南国酒家さんのお料理は、より日本人に馴染みやすい

こうして生み出される南国酒家さんのお料理は、より日本人に馴染みやすい、すんなり口にして楽しめるものばかり。鮮度が良く安心安全な国内の素材をふんだんに使い、たとえば中国ではしっかり火を通すのが“セオリー”の野菜も、臨機応変に生やさっと炒める程度でシャキシャキの歯ごたえとともに提供。慣習にとらわれることなく、日本の食材を最大限に楽しめる味わい方を提案しているわけですね。

ところで、中華というとターンテーブルのある円卓をみんなで囲んで、というイメージがありますが、大人数でないと行っちゃいけないんでしょうか……、社長、2~3人じゃだめですか?

「確かに昔は大勢での利用が多く、料理の分量も1皿3~4人前が普通でした。しかしお客様の志向も変化して、今では2名様で来店される方も非常に多い。ですから料理も少人数向けのものを用意しています。2名で来ていただいた方にも、やはり4~5品のメニューを楽しんでいただきたいですからね」

2人で行ってエビチリを頼んだら、各人エビを十何匹も食べることになってそれだけでお腹いっぱい……とか、悲しすぎますからね。ありがたいです。この少人数向けサイズの提供も、中国料理のレストランとしてはかなり先駆的に取り組んできた南国酒家さん。この他にもいろいろな“変化”にチャレンジしてきたそうです。

「より良いものを求めて、食材も調味料もほぼ全部見直してきたんじゃないでしょうか。仕入れ先もそうです。乾物や缶詰を扱うところから、お寿司屋さんが取引しているような生鮮関係のところにシフトしてきた。鮮度の良さで勝負するような食材も、どんどん中国料理に取り入れていこうという思いからですね」

「何にしても“変える”のは、やらなきゃいけない仕事が増えるので大変ですよ。でも、必要に応じてパッと素直にチェンジできるようじゃないとだめですね。こういう一つひとつの改革は、使命感というよりも“やって当たり前”のこと。だから『リスクを抱えてでもやる』というような感覚ではなかった。変えない方がリスクなんですから。変えることの方が自然なんだと思います」

こうして、どの中国料理とも違うオリジナリティーを育て上げてきた南国酒家さん。取引先の方には、「もう中国料理というより“南国スタイル”の料理として確立している」と言われているそうで、いやはや、恐れ入りました。

五感総動員で体験すべし、これが紹興酒の“本気”だ!

五感総動員で体験すべし、これが紹興酒の“本気”だ!

さてそんな南国酒家さん。もちろんおいしいお料理と一緒に楽しむお酒も充実しているわけですが、中でも味わってほしいのは、やっぱりアレですね。

「1杯目はビール、という方はやはり多いですし、中国料理にビールはよく合います。でもその次に頼んでいただきたいのは紹興酒なんですね。私たちが今、力を入れているお酒です。特に火入れの回数が少ない甕(かめ)出しのものがおいしいのですが、甕の紹興酒を“常にいい状態で”出すのはなかなか難しいんです」

というのも、紹興酒はワインなどと同じ醸造酒。なので酸化が敵。酸味が強く出てしまい、旨味が逃げてしまいます。しかも社長曰く「ワインよりもデリケートかもしれない」という甕出しの紹興酒は、開けて3日もすると味が変わってしまうのだとか。とはいえ甕のサイズは小さくても9リットル。通常の600ml程度のボトルにして約15本分。これを1~2日で空けてしまわないと、酸化によってどんどん状態が悪くなってしまうわけです。

「甕の紹興酒をおいしく出す方法は、回転を速くすることなんです。その点、この原宿本店には総計で約1000席というスケールメリットがあります。おそらく小規模なお店では空けるのに何日もかかる甕も、当店では1日に5~6本というペースで出ています。ひょっとすると日本で一番甕の紹興酒を消費しているレストランかもしれません」

いやあ、参りました。つまり、原宿本店で甕出し紹興酒を頼むと、それはいつでも開けたて、もしくは“ほぼ”開けたて。常に非常にいいコンディションでいただけるのです! しかも甕の紹興酒は5年物と8年物の2種類。複数の熟成年数の甕を、コンスタントにフレッシュな状態で出しているお店は、社長曰く「当店ぐらいかもしれませんね」。

そんな甕出しの紹興酒ですが、原宿本店ではオーダーすると・・・

さてそんな甕出しの紹興酒ですが、原宿本店ではオーダーするとまず甕がそのままワゴンに載って登場します。

原料であるもち米由来の香ばしい香りが一気に広がる中、テーブルのすぐ横で甕からすくってデキャンタに移され、テーブルにサーブされます。

この一連の流れ、既にグラスに注がれた状態で運ばれるのとは違う説得力がありますね。

「やっぱりワゴンでごろごろ運んできて、その場で大きな甕からすくってお出しすると、印象はだいぶ違いますね。お酒は味だけじゃなくて、体験全体も含めて楽しむものですから。紹興酒の初心者や、特に女性の方には飲むまでの過程がとても大事。何か演出があると気分は盛り上がりますし、目の前で仕事をしてもらうと安心感も生まれます」

「こういうプロセスを体験して、風味がフレッシュな開けたての甕出し紹興酒を味わうことで、紹興酒のイメージが変わったというお客様は多くいらっしゃいます。同じブランドの紹興酒でも味わいが違って感じられる、という声も聞かれますね。そういった方々はリピーターになっていただけますし、『南国酒家で飲む紹興酒がおいしい』とまた別の方に話していただけます」

そうなんです。「甕出し」かつ「開けたて」の紹興酒に関するうんちくを仕入れて、しかもそれを臨場感とともに体験すると、話したくなっちゃいますよね~。「おい、知ってるか?」と。そうして紹興酒に目覚めてしまう人がどんどん増えていくわけです。紹興酒を卸している酒造メーカーさんからは、「原宿本店の紹興酒の消費量だけすごく多いのはなんでなんだろう」と驚かれているそうですが、まあ、さもありなんといったところでしょうか。

そんな南国酒家さんの紹興酒をさらにおいしく楽しむための飲み方、料理との合わせ方、さらに中国料理のメニューと他のお酒を合わせるなら……、といった“実践テクニック編”は(2)でご紹介しますよ! 知るほどにますます後戻りができなくなる紹興酒の魅力、引き続きお楽しみください。