京都にある木下酒造。ここに、外国人の杜氏がいる。英国人のフィリップ・ハーバー氏。日本酒にほれ込み、教師を辞め杜氏になった外国人。今回いただくのは、彼の造ったお酒の中から、夏限定販売の「Ice Breaker」。
なんともお洒落で、綺麗なラベルである。しかしこの酒、17度もある、酸味が強い硬派な日本酒。
それもそのはず、氷を浮かべて呑むのがお勧めだとか……。氷が解ける事により、味の変化が楽しめるそうだ。もちろん、そのままでも旨いのは言うまでもない。
早速いただく。ガツンとしたパンチを喰らったような強烈さ!濃厚なバナナの様な芳醇な香りがまずやってくる。旨みを伴った重い甘みが口中に拡がる。旨い!! 濃厚な旨さなのだ!!
強烈なキャラクターの酒にはガツンとした料理を合わせてみよう。まずは「牛モツ煮込み」。牛モツを味噌で煮込んでいて、出汁の旨みに味噌が溶け込み旨みが倍増している。牛モツの甘みが滲み出てくる。
お酒をあわせる。味噌の旨み、甘み、辛味と酒の芳醇な旨みがせめぎあう。せめぎあいながら見事なバランスを取り合う。両立する旨さなのだ。
次にいただくのは「鶏のレバ刺し」。胡麻油につけていただく。ほんのりと漂う胡麻油の香りが堪らない。レバーは口の中で蕩けていく程上質。美味い。
お酒を口に含む。フルーティーな香りが不思議と胡麻油の香ばしさとあう。レバーは濃厚な旨みの海を浮き沈みする。この料理もこのお酒に良く合う。この酒は、刺身と醤油という組み合わせにもマッチするのだろうが、胡麻油のような個性溢れるものとの組み合わせの方がより輝く気がする。
「Ice Breaker」を訳すと、「場を和ませる」という意味になる。日本酒にピッタリの言葉だし、このお酒にもピッタリ当てはまる。ガツンとした料理を見事に和ませてくれるのだ。
今回、【その1】では女性の杜氏が作ったお酒、【その2】では外国人が作ったお酒、それぞれを試してみたが見事だった。両方とも旨いのは言うまでもないが、それぞれが醸し出す特徴は日本酒の奥深さを物語っている。
【その1】で紹介した、千野氏の造ったお酒「MARI」は、素材の良い所を引き出し、悪い所を直していく。その結果、優しく旨いお酒に育つ。いわば女性のセンスで見事に作り上げた逸品。
そして今回のフィリップ氏の「Ice Breaker」は、自身の目指すものを極限まで引き上げたお酒。その結果、酸味の強いガツンとしたものが出来上がったのだろう。外国人の個性が光る逸品だ。
いずれにしろ、お酒には杜氏の個性が命として吹き込まれている。どの銘柄一つにしろ同じものはない。無限大に広がる世界。だから、その面白さに引きずり込まれる。
今宵も、旨い酒の世界に溺れることにしよう。