地酒は地元で飲むのが一番美味い。どんなに美味しいとされる地酒でも、地元で飲む以上に美味しく飲めるところはないように思います。
成田山の酒「長命泉」が飲みたくて、成田に行きました。京成本線成田駅を降りると、参道を入ってすぐのところに瓦屋根の美しい長命泉の酒蔵があります。その二軒隣りにそば屋があり、お昼はここだと心に決めて、先に新勝寺にお参りに行きました。ご近所のよしみで出している酒は長命泉であろうと勝手に得心しました。平日にも関わらず、表参道は混んでいます。煎餅、漬物、落花生、干物、古着、ようかん、佃煮、甘酒などなど店前にも出店を広げ、丸で祭礼のよう。成田名物「うりの鉄砲漬け」を買いました。浅草、浅草寺の仲見世と違うのは農作物も並んでいて、鄙びた味わいがあります。
風情のある下り坂の表参道から鰻を焼く煙の中、三重塔が見えます。鰻屋が並び、隣りと競うように鰻を焼いています。養殖鰻の産地は鹿児島、愛知、宮崎、静岡などですが、成田は印旛沼、利根川が近く、天然鰻の産地として知られます。利根川の他に、四国の四万十川、九州柳川、霞ヶ浦など名だたる産地です。人気の店は長蛇の列。列が客引きとなり更に並んで行くようです。そうでない店は何かが足りない。たぶん気合の入れ方の違いです。
お参りの後、お札売り場で「勝」と朱墨で記された身代わり木札をもらいました。江戸時代、屋根から転げ落ちた大工が成田山別院の深川不動尊の木札を帯に付けていて、身代わりに木札は割れて怪我ひとつなかったという謂れのお守りです。
お札を首に提げて、長命泉の二軒隣のそば屋の暖簾をくぐりました。丁度二人連れが立ったので、小上がりのテーブルに座ることができました。品書きをのぞくと、長命泉ではなく、造り酒屋のまん前なのに、菊正宗でした。とは言え、そば屋で菊正宗を置く店は蕎麦の名店が揃う東京に多いので、お燗とせいろとたぬきをたのみました。長命泉の身代わり、菊正宗はそば味噌の入った小さな器が添えられて出てきました。やはり、そば屋の菊正宗は中々です。
隣りの長命泉のお店で、普通酒「長命泉 特醸」の四合瓶を買い、JRに乗り家路につきました。空いた車内、長命泉で貰った紙コップで味見しました。窓の外は丁度、佐倉と物井の間を流れる鹿島川。川面に映った青空と清々しく味わいのあるお酒が見事にリンクしました。
■菊正宗
http://www.kikumasamune.co.jp/
■長命泉
千葉県成田市上町540
年中無休
月~土 10:00~19:00 / 日10:00~ 18:00
http://www.chomeisen.jp/
追伸。その日、家の階段を下りる際、少々ユルイ靴下だなと思った瞬間、滑って転げて右腰をしたたか打ちました。階段の角は凶器です。その晩は買って帰った「うりの鉄砲漬け」で「長命泉 特醸」四合瓶の続きを飲むことはできませんでした。「うりの鉄砲漬け」は中央に南蛮が入っていて、ほんのり辛みがあり、お酒ばかりかごはんも進みます。原材料の白うりが採れるのは、初夏から夏にかけて。その頃だけ食べられる「白うりの浅漬け」も鮮やかな緑が涼しげでまたいいんです。
翌朝、まだ、痛みがあり、整形外科に行き、レントゲンを撮ってもらうと、右腰のちょいと上の骨にひびが入っていました。打ちどころが左にずれていたら背骨でした。これはやはり身代わり木札のお陰です。