【お前もなめろうにしてやろうか?】いろんな魚介を叩きまくる ~なめろう博士の異常な愛情~(3)

9種類の魚介をしこたま叩いて、なめろうとしての適性と酒のツマミとしてのポテンシャルをしこたま検証しようという本研究(その経緯と野望については(1)を参照のこと)。実験サンプルのなめろうナイン「NMR9」の1~5番までは前回紹介を済ませた(これは(2)を参照したまえ)。

今回は下位打線6~9番を紹介していくが、私の四半世紀を超えるなめろう研究の経験からすると、このメンツははっきり言って少しも「下位」ではない。凡庸なツマミが集まるチームに行けば、即座に4番に入れる実力者ばかりだ。NMR9をウラで締めている恐るべき四天王。まったく油断もスキもあったもんじゃない。君も気を引き締めて臨んでくれたまえよ。

……と言ったそばから一体なんだね、その幽体離脱したような表情は。包丁を足の甲に向けて危うく落としそうになってるじゃないか。柄をしっかり持ちたまえ、柄を。何? 野球に例えてもいまいち頭に入ってこないだと? それ今言う? もう5番まで打順の体で紹介しちゃったけど? 君、アシスタント風情が大きな口を叩くんじゃないよ。なめろうだけに叩く、とか言ってるんじゃないよ。

いいかね。魚介が9種類ある。9と言えばナインで、ナインと言えば野球なのだよ。じゃあ何かね。9と言えば第九で、ベートーベンの交響曲1~9番になぞらえて、君はなめろうを紹介できるっていうのかね。「第5番“運命”だけにうんめえ」とか言うのかね。は、馬鹿馬鹿しい。これだから最近の若いモンは、ヒャッヒャッヒャッ、何もわかってないくせに、ヒャッヒャッ……。ま、待て待て、包丁を持ってこっちをじっと見たままプルプルするな。柄を握りしめるな、柄を。相手は私じゃない、次の魚介だ。早く叩いて持ってきたまえ。あー、おっかないおっかない。さては刃物を持つと人格が変わるタイプか?

6番は、変幻自在な「海の忍者」

6番、タコ

生態も変幻自在、食感も味も変幻自在。「海の忍者」らしく地味な活躍もするが、油断してると一発をお見舞いする力も持っている、敵に回すとやっかいな6番。今回はマダコを起用。一度ボイルしてから胴と足をブレンドし、叩いてみた。

実際に叩いてみても少々やっかいな相手。まったりとした胴と歯ごたえのある足、さらにその中でもコリコリした吸盤部分が、互いの食感を主張したままなかなか折り合う気配を見せない。一体感という着地点を見つけにくいタコさんだが、逆に変化に富んだ食感のモザイクは魅力的。あえて叩き過ぎずに、各部位の主張を残して味わうのも乙だ。

7番、ホタルイカ

春の味覚。5月いっぱいぐらいはスーパーにもよく並んでいる。酢味噌和えなんかは彩りも華やかで大定番。パワフルさには欠ける外見ながら、安定した結果は残す。この下位打線にあってひときわキャラクターが立っている7番、それがホタルイカである。

これもタコ同様、ボイルしてからなめろうにする。最大の特徴は、イカを全身(除去する部分はあるにせよ)まるごと叩いてしまうことだろう。肝の部分ももちろん叩かれて混じり合うので、全体に味の深みが出てなかなかクセになる。この「臓物感」が好きな人は、和える調味料を控えめにして肝の風味をよりストレートに楽しむのもいいだろう。

8番は、毎日の食卓にもよく上がるお馴染みの食材

8番、スルメイカ

毎日の食卓にもよく上がるお馴染みの食材。ホタテやマグロほどのスター性はないが、安心感のある親しみやすさを武器に、日本人の味覚にコツコツ当ててくるしぶとい8番。下位打線でイカコンビを組むホタルイカとは、見た目も含めて違うカラーで勝負する。

今回は身の部分だけを叩いてみた。淡いグリーンの輝きを帯びた仕上がりが、他のメンバーとは違う個性をさりげなく主張している。食感はいわゆる「アルデンテ」。歯に当たる瞬間はモチっとしているが、さらに噛んでいくとコリッとした弾力に遭遇する。スーパーで1杯まるごと買ってきて、ミミやゲソの部位も混ぜて叩けば、さらに複雑な食感のハーモニーが聴けそうだ。

9番、トビウオ

南の海からやってきた快足のスピードスター。「影の1番」としてチャンスを広げ上位打線につなぐ、侮れないラストバッターだ。なめろう界では、サンマやイワシなどと並んでわりと見かける顔ではあるが、春~夏の今が旬ということでスタメンに抜擢してみた。

今回は八丈島近海からダッシュで駆けつけてくれたトビウオ。アジに比べると脂の乗りは控えめで、高校球児の丸刈りみたいなサッパリスッキリ感が楽しめる。また青魚特有のくさみもそれほど強くなく、長めに叩いてもムッとくる香りが前面に出すぎることもない。しっかりトントンしまくって、なめろうの醍醐味であるモチモチの粘り気を十二分に出して堪能したい。

さあ、これでNMR9全メンバーの紹介が完了だ。ちなみにおさらいだが、作り方は基本どれも同じで、魚介を適当な状態にさばいてから味噌ときざんだ白ネギ・ミョウガ・ショウガ・大葉を混ぜて、あとは叩くだけ。叩く時間はお好みで良い。原形を残して歯ごたえを楽しむ、長く叩いて粘りを楽しむ、どちらもアリだ。

まだ予告編に過ぎない

まだ予告編に過ぎない

では君、これからちょっと近所のスーパーまでひとっ走り頼めるかね。まあそう漫画みたいに頬を膨らませるな。ちょっと必要なアイテムを揃え忘れていてね、ここにリストがあるから、頼むよ、ひとっ走り、ね、パシリ、パシリ。ああ、わかった、言い方が気にさわるなら、ほら、おつかいね、おつかい。あと今ちょっと持ち合わせがないもんだから、建て替えておいてもらえるかね。なんだね、この私をまったく信用しとらん目だなそれ。領収書を出してくれたら研究費から払うとも、うむ、払うとも。ん? あ、宛名は「なめ☆ラボ」ね。前株か後株か聞かれたら、「中星」だと言えばあそこの人はわかる。ヒャッヒャッヒャッ。

どうした、まだ何か気になるのか? そのリストがどうした? そうだよ、わりとお馴染みの調味料だ。いいかね君、この実験はだね、ここからがいよいよ本編なのだよ。ここまでのはいわば、映画館で「NO MORE 映画泥棒」が出てくるまで半永久的に続く予告編の集合だったわけだ。ヒャッヒャッヒャッ。

ここからは各なめろうにさまざまな調味料を配合し、その化学変化をつぶさに記録。そして我がラボ秘蔵の酒たちとの相性を、スーパーコンピューター「京」のロゴを貼った私のノーパソで算出する。どうだね、考えただけでも興奮して無性に駆け出したくなるじゃないか! ヒャーッ! ほれ、君も、居ても立ってもいられないとばかりに、ほれ、スーパーへ、ヒャーッと、ほれ、ヒャーッと、駆け出して……いかないか、そうか、わかった、私が行ってくるよ。リストをくれたまえ。

<続いては(4)9種類のなめろう×調味料×酒を検証してみた【上】です>