さて、9種類の魚介を叩きに叩いて、なめろうとしての潜在能力とツマミとしての可能性を極限まで引き出す本研究(その経緯と野望については(1)を参照したまえ)。早速、実験サンプルのなめろうちゃんたち、すなわちなめろうナイン、すなわちNMR9を紹介していこう。
ちなみにNMR9はいずれも、魚介を適当な状態にさばいてから味噌ときざんだ白ネギ・ミョウガ・ショウガ・大葉を混ぜて、あとは叩くだけ。叩く時間は素材と、好みにより分かれるところだ。原形が残るくらいで止めて、歯ごたえを楽しむのも良し。長く叩いてしっかり粘り気を出しても良し。その辺のさじ加減は各メンバー紹介のところで適宜触れるとしよう。
では君、まずはトップバッターをここへ。うむ、振る舞いがなかなかアシスタントらしくなってきたじゃないか。さては食材を叩いているうちに、己のサディスティックな一面に目覚めてしまったんだな。ヒャッヒャッヒャッ。さすが、なめろう研究室の門を叩いただけのことはある。素質あるよ、君、門を叩いて食材を叩いて、叩いて叩いて、ヒャッヒャッ……、ま、待て待て、包丁を持ったまま冷静な目で私を突き刺すな。リアルにサディスティックだからその目、ビビるじゃないか、冗談だよ冗談。えーっと、なんだ、そうだ、トップバッターだ。
いきなり意外性のあるメンバー起用。しかし一般的なシーフードのジャンルではメジャーな存在であり、十分な実績も残している。「海の老」と書いて「ベテラン」。まさに1番バッターに適任の、なめろう界のイチローである。
今回のチョイスはアルゼンチン赤エビ。甘エビよりも大ぶりなサイズ感で、スーパーでもよく見かけるので入手もしやすい。なめろうにしてもプリプリしたエビ特有の食感は健在だが、叩けば叩くほど身から水分が出てきて味がぼやけがちという難点もある。最後に塩や醤油を足して味を締めるのがいいだろう。
ハマグリに似た貝。バカガイという呼び名の方が馴染みがある、という人もいるだろう。貝柱の部分は揚げたり炊き込みご飯にしたりすると美味で、干したものは珍味にもなる。かと思えば寿司ネタとしての役割もきっちりこなす。小技も利くが派手な活躍もできる、なかなかクセ者の2番バッター。
クセ者だけに風味にもクセがあり、好みが分かれるところかもしれない。叩くとその風味がいっそう強く立ってくる。エビ同様に水気が出やすいので、風味を活かしたいなら塩、少しごまかしたいなら醤油を加えて味を引き締めたいところだ。
貝類の中でもビッグネーム。存在感抜群の貝柱で打線の中軸にどっかりと座る強打者。一方でヒモや生殖巣など歯ごたえと味わいが違う別の部位も織り交ぜるあたり、状況に応じた器用な打撃も見せる。
他のなめろうとの違いは、なんと言ってもそのカラフルな色合いだろう。今回は貝柱をベースに、ヒモと雌の生殖巣(つまり卵巣、赤みがかっている)をブレンドして叩いたので、アイボリーに赤とオレンジが散りばめられた美しいビジュアルに仕上がった。もちろん風味と食感も何パターンかが共存していて変化が楽しめる。さすがは花のある3番打者。
なめろうというより、水産界を代表する4番。なめろうっつうか、ネギトロなのでは?という実に野暮なツッコミなどお構いなしで、脂の乗りまくったバットをブンブン振り回す。たいていはホームラン。それ以外は三振。しかし三振しても絵になるので皆納得してしまう、完全無欠の千両役者。
して、なめろうはホームランか三振か、というともちろんホームランだが、美しい放物線ではないかもしれない。バットの根っこなのにパワーで持っていった弾丸ライナーだ。今回は赤身をベースに中トロあたりの脂ぎったパーツを混ぜて叩いているが、要するにその部位の組み合わせは叩こうが何をしようが安定したうまさを発揮する、ということなのだろう。
本研究の精度を上げるために、あえてド定番食材もメンバー入り。なめろうと言えばその名を知らぬ者のない、大ベテラン。踏んだ場数の圧倒的な多さに裏打ちされた、安定感の半端ない打撃で確実にランナーを返し続ける打点王。あつい信頼が寄せられる不動の5番である。
今回は長崎・佐賀といった北部九州産のものを使用。叩くほどに現れるこの粘り、赤身的な脂っこさと白身的な冴えのあるスッキリした味わいのバランス。やはり王道の中の王道。なめろうの中のなめろう。これ以上の安心があるだろうか。何かがあっても、我々には帰れる場所があるのだ。
と、ひとまずクリーンナップまでは紹介したぞ。君もよく頑張ってついてきたな。ここらで一息入れるといい。あんまり素材を叩いてばかりいると、腱鞘炎になりかねないからね。私もずいぶん悩まされたもんだ。何? これからは下位打線だから大丈夫です、だと? 君、何も分かっとらんね。NMR9の真価、打線の恐ろしさは、ヒャーッ! むしろここからが本番なのだよ。甘く見てると、それはそれは大変なことになるぞ。ヒャッヒャッヒャッ。
<続いては(3)9種類の魚介をなめろうにしてみた・後編です>