【生麦駅を降りたら嵐が待っていた……?】キリンビール横浜工場で一番搾りのうまさの秘密を見学してきたぞ

その日は嵐のような天気で、京急線・生麦駅から目的地まで歩く間に我々は雨と風になすすべもなく翻弄され、編集長Dの頭髪などはいつもより余計に禿げ散らかって、軽く遭難した人のような仕上がりとなっていた。

今にしてみればこれも、「嵐だけに」ということだったのだろう。

神奈川県横浜市鶴見区生麦。そう聞いてピンとくるのは、だいたい歴史好きか酒好きだ。歴史好きにとっては、その名も「生麦事件」の発生地である。どんな事件かは、まあGoogle先生にでも聞いてくれ。

そして酒好きにとって生麦と言えばキリンビール横浜工場だ。“嵐”でお馴染みのあのビールが作られ、工場見学後には試飲もできる、呑兵衛&呑み姫を引き寄せる魅惑の地。だいいち「生」と「麦」だ。ここにビール工場が無い方がおかしい。

「キリンビール」のブランドは、最初、横浜の山手で誕生した。1888年のことだ。その後1926年に、工場が生麦に移転した。それから90周年となった昨年には、工場見学の設備・演出がリニューアル。ということで編集部の面々で先日お邪魔してきたわけであるが、ここで話は冒頭の嵐のシーンに帰ってくる。

難破船のようにしてどうにか工場にたどり着いた一行は、約一名の散らかした頭のことをいじるのもそこそこに、意気揚々と工場見学(あるいは試飲というゴールへの旅)に出発した。

最近の工場見学は釜の中まで見える化されるらしい

キリンビール横浜工場の工場見学は「一番搾り うまさの秘密体感ツアー」という約80分のコースで、要予約、無料。10~16時の毎正時にスタートして、まずは昨年のリニューアル時に新設したシアターでキリンビールと横浜工場の歴史が映像で紹介される。

その後工場の内部に入って、まず原料を“体験”する。麦芽とホップの「実物」を手に取り、さらには麦芽をポリポリ食べたり、ホップの実を割いてくんくんしたりできるのだ。原料の味と香りを実際に感じることができる。

さらに進むと見どころの一つである仕込釜ゾーン。最大で直径12メートル、高さ7メートルもあるどデカい釜が並んでいて、原料に水を加えてもろみ(麦のおかゆ)を作ったり、麦汁をろ過したり、ホップを加えて煮沸したりと、ビールづくりのキモになる重要な工程がここで行われている。

が、当然ながらその様子は釜の中の出来事なのでうかがい知ることはできない……はずなのだが、これまたリニューアル時に投入された最新演出テクノロジーであるプロジェクションマッピングによって、釜の中がなんと“見える化”される。音と映像でもって、うまさの秘密がまる見えになるのだ。どんな演出なのかは……見てのお楽しみということで。

そして、そんな仕込釜の中で生み出されるのが、今やキリンのアイデンティティーと言ってもいい、あの「一番搾り麦汁」なのである。

君は一番搾り麦汁と二番搾り麦汁を飲み比べたことがあるか

一番搾り麦汁。その名の通り、仕込釜の中でもろみをろ過して、最初に流れ出る麦汁のことである。通常、ろ過は繰り返され、二番搾り麦汁というものも存在するが、「キリン一番搾り」に使われるのは名実ともに一番搾り麦汁だけ(世の中の一般的なビールは一番と二番を組み合わせてつくる)。これが世界にただ一つとも言われる、「一番搾り製法」である。

……と、ここまではGoogle先生に頼っても得られる知識だが、今回は工場見学である。この製法のことを頭ではなく味覚で“体験”させてもらえるのがミソだ。見学ツアーでは、一番搾り麦汁と二番搾り麦汁、それぞれの単体を味見できる。

まず二番搾り麦汁から飲んでみる。一番よりも薄い色なのでかなり水っぽいのかと思っていたら、これはこれでなかなかに香ばしく、穀物的な甘味が感じられてけっこうイケる。

なんだ二番でも相当うまいじゃないかとハードルをぶち上げたところで、一番搾り麦汁を飲んでみる。

……全然違った。

上げたハードルを快調に飛び越えてくる味の深み。二番では麦の甘味が立っていたが、それがコクの次元に達している。

この一番搾り麦汁だけを使うことが、いかに贅沢なことなのか。それを実際に体幹したところで、ツアーは次のステージに進む。

ビールが完成に近づくとともに佳境に入る工場見学

一番搾り麦汁はホップを加えられて煮沸された後、直径8メートル、高さ21メートルもある巨大な発酵タンクに移される。ここで酵母の働きにより“酒”になっていくのだが、我々も一緒にタンクにダイブするわけにはもちろんいかない。ということで酵母の活躍の様子は、ミクロの世界をキャラクター化したCGで再現。

手をしずくの形にしてライトにかざすと、スクリーンに酵母たちが出てきて生命活動を始める。この微生物の生きる力により、結果的にビールの発酵が進むのだ。

世のビール党のために懸命に働くけなげな酵母たち、何と愛おしい奴らだ。

が、あるところで酵母たちはろ過されて取り除かれる。発酵し過ぎるとかえって味が落ちるからだ。こうしていい感じにビールとして仕上がってきた「キリン一番搾り(の一歩手前)」は、最後に低温貯蔵による熟成プロセスを経て、ついに「キリン一番搾り(完全体)」となる。

で、その完全体が缶に詰められ、缶が箱に詰められて世に流通していくわけだが、その充填&梱包ラインの様子もツアーでは見学できる。「ザ・工場見学」な眺めだ。製造ラインマニアなら大興奮の景色だろう。

しかし我々の興奮ポイントはやはりここではない。この後である。そう、その通りだよ、試飲タイムだよ。

なぜ工場で飲むビールはあんなにうまいのか

見学ツアーは“本編”がおよそ60分で、その後の試飲タイムが20分。工場で出来立ての「キリン一番搾り」と、その神奈川県スペシャルバージョン「キリン一番搾り 横浜づくり」が樽生で味わえるほか、この夏の限定醸造バージョン「キリン一番搾り 夏冴えるホップ」も試飲させてもらえる(提供内容は時期などにより変更あり)。3杯までおかわりもできるので、飲み比べも可能だ。

いやまあ、やっぱり工場で飲むビールはどれもうまい。なんでこんなにうまいのか。嵐にめげず生麦駅から歩いてきた甲斐があったというものだ。

ちなみに、横浜工場にはさらに人気のコンテンツもある。「ビールづくりを見学する」に飽き足らなくなってしまった人のため(?)の、「ビールを自分でつくる」体験教室だ。“体験”だからと気楽に構えていると(参加すること自体はもちろん気楽でいいのだが)、これがなかなかの本格&本気の教室で、まず朝から夕方までの丸一日がかりという気合の入り方からしてすごい。

ほぼ完成しかかったビールに最後ちょっと手を入れる、みたいなレベルではないのだ。麦芽を煮る仕込み作業から始めて、まさに工場見学でたどった醸造プロセスを自ら追体験していく。最後に発酵に回し、約6週間後にオリジナルラベルのボトルに入ったマイビールが自宅に届くということで、これが結構な人気なのだという。

この「ビールづくり体験教室」はグループでの参加、要事前申し込み、有料、などなど工場見学とはちょっと条件が違うので、気になった方はホームページをチェックしてほしい。
http://www.kirin.co.jp/entertainment/factory/yokohama/seminar/

他にもクラフトビールがいろいろ飲み比べできる「スプリングバレーブルワリー横浜」があったりバーベキューが楽しめるレストラン「ビアポート」があったりと、その気になれば軽く半日はビール尽くしの時間にどっぷり浸かれるキリンビール横浜工場(もちろん我々編集部の面々は軽く半日ビールにまみれてきた)。今度行くときは、嵐ではなく頭髪に優しい晴天であることを切に願う。