東京・恵比寿の東口、ハイセンスで雰囲気の良いお店が並ぶ大人の飲みエリアの一角に、「天ぷら×立呑み」というコンセプトで人気を集めている「喜久や」さんがあります。立呑みと聞いて想像するオジサンくさいイメージが、気持ちよく裏切られるオシャレな空間。天ぷらのハードルをぐっと下げて、「女性も気軽に入りやすい場所」を意識したお店づくり。そうした「行ったら誰かに言いたくなる」人気の秘密は(1)でご紹介しましたが、ここからはいよいよ、文字通りのメインディッシュ! 絶品の天ぷらとお酒のコーナーです。
まずはお待ちかねのサクサク天ぷら。コースはなく、好きなタネを1品ずつオーダーするアラカルトのスタイル。カウンター越し、職人さんに「イカ天、お願いね!」なんていう粋なやり取りができるのも、立呑みならではの雰囲気で好評なんだとか。
天ぷらのメニューには定番のタネから旬の野菜や魚介、そして意外性が魅力の変わりダネまで、おいしそうな食材がズラリと並んでいて嬉しい悩みを与えてくれます。1品150円~500円。築地の仲卸が目利きした良質な海鮮と、季節感も意識した野菜のラインナップなど、仕入れにもこだわった粒ぞろい、いやタネぞろいのメニュー。いや~、迷いますね。
「まさにその悩んで選ぶところがアラカルトの醍醐味。今度来たら次はこれを頼もう、と皆さんいろいろトライしながら楽しんでいますね。しかも当店のメニューは季節に応じて2か月に1回リニューアルしていきます。これがまたリピートする理由になっているようです」そう教えていただいたのは、お店を運営する株式会社 一期一会の本間儀彦社長。メニューチェンジが年6回! 常に旬のものを味わえるのが嬉しいです。ですが、嬉しい悩みがさらに増えてしまいますね(笑)。
「定番の人気ダネはやはりエビ、牡蠣、万願寺(とうがらし)など。あとは大根ですね。これは下味をつけたものを揚げるんですが、衣の中では水分がしっかり残っていて、おでんみたいな風味と食感が楽しめます」
おおお、それはおいしそうですね。(1)でもご紹介したこだわりの揚げ方によって、「喜久や」さんの天ぷらは素材の水分が失われないのだとか。カリカリの衣の中で、エビも牡蠣もプリップリの状態がキープされるわけで……、野菜も枯れずにみずみずしいまま……、あ、ヨダレが、すみません。
この「外カリカリ中プリプリ」な揚げ方のおかげで、おいしさは定番以外の変わりダネにも広がります。たとえば「味玉」。半熟玉子のトロリ感がそのまま、サクサクの衣に包まれます。たまりまへん。そして「うなぎの蒲焼」。中はふっくら、あの蒲焼ですが、外はカリッと仕上がっていて歯ごたえのギャップが面白い。他にも「パクチー(かき揚げにする)」やデザートの「バニラアイスの天ぷら」など、挑戦意欲がそそられるタネがいっぱいです。
「あと面白いのは豆腐ですね。水もついたまんまの絹ごし豆腐を素揚げにするんですが、中は湯豆腐みたいなトロットロの仕上がりになる。これがうまいんですよ。皆さんにオススメしてます」
絹ごしちゃんをサクッと揚げて、、
青唐辛子をトッピングしていただきます。あ~、ちょっと、そろそろお酒……、あ、すみません。しかし最高のツマミですねこれ。
長くヨーロッパに滞在した経験もある社長の発案で、洋モノ素材の天ぷらも充実。ズッキーニ、アボカド、ホワイトアスパラ、そしてプチトマトとモッツアレラのカプレーゼ、などなど。メニュー開発は日々続いているそうです。
そして呑兵衛&呑み姫にとっては気になるお酒情報! これもいろいろと種類がありますが、さて、天ぷらと一緒に飲むにはどれがオススメでしょう、社長。
「お酒は全て天ぷらとの相性を考えてセレクトしているので、もちろんどれも合うのですが、店としてはこのポルトガルのワインをレコメンドしています」
と、サーブされた白ワイン「カザルガルシア・ヴィーニョベルデ」(ボトル2,800円、グラス500円)。ポルトガルの“国民的ワイン”で、ややグリーンがかった色の天然微発泡、口に含むとちょっとピリリときます。
「天ぷらは一説にはポルトガルのシーフードフリッターがルーツ。そのフリッターと一緒に、現地の人はみんなこれを飲んでいる。少しピリッとくる辛口のドライで、天ぷらともめちゃくちゃ合う、合わないわけがないんです。このお店を始めるときに、絶対に出そうと思っていたワインですね」
軽めでキリッと、ちょいシュワでスッキリ。女性にも人気だそうです。天ぷらとポルトガルのうんちくも含め、人に伝えたくなる「ストーリー性」のある一本ですね。ワインは他にもスパークリング、赤、白と、国産のものも織り交ぜて多彩&リーズナブルなラインナップになっています。
さらに立呑みといえば外せない日本酒! 升の上にグラスを乗せてこぼし酒、というお馴染の「立呑みルーティン」もしっかり踏襲されています。
注いでいただいたのは「櫻正宗 焼稀(やきまれ)」(580円)。少し辛口で豊かなボディ感、後味でほのかに酸味を感じる一杯です。
「酒蔵は神戸・灘の老舗。小売りにほぼ卸していないので手に入りにくいお酒です。関東では銀座の数店舗と当店ぐらいしか出していないのでは。日本酒もいろいろと探したのですが、これは“やや辛”で天ぷらとの相性がいい。天ぷらには基本辛口が合いますが、辛すぎてもだめで、このぐらいがちょうどマッチするんですよ」
ワイン、日本酒の他にもビール、ハイボール、酎ハイ・サワー、焼酎、梅酒・果実酒とお酒は豊富にそろっています。ハイボールは地酒の樽で寝かせたウイスキーを使用するなど、どれもこだわりのセレクト。愛知県西尾の抹茶でつくる抹茶ハイ(580円)や、和歌山県の田村みかんでつくるみかんハイ(580円)、大阪のワイナリー・河内ワインがつくった梅酒(600円)などは女性に人気です。
天ぷらとの相性もしっかり考え抜かれたお酒の数々。どのタネにはどのお酒がベストか、いろいろ試してみたくなりますね。
ということで、(1)(2)と語りつくしました、「喜久や」さん。一度行くと、教えたいネタ、伝えたいネタがどっさり入ってくるので、編集長D、その「シェアしたい欲求」を全て発散した感じです……。
「まあいろいろとお話ししましたけど、実は単純に“自分が飲みたいと思う店”をつくってるだけなんです(笑)」と社長は言います。「仕事帰りに一人で飲めて、でも雰囲気が良くて、料理もおいしいところって、意外とないんですよね。あと待ち合わせで1杯ひっかけようというときも、座りの店だと1杯だけでは出にくいじゃないですか」
「それで思い出したのが、自分が前に仕事で滞在していたヨーロッパ、特にイタリアやスペイン、ポルトガルで出会った立呑みのスタイル。ああいうお店なら、自分もフラッと入ってみたいなと。そのぼんやりしたイメージが原点になっていますね」
案外「出やすさ」というのが入りやすさにつながっているのかもしれません。一人でも、気の合う仲間とでも、軽く飲んでサクッと食べてちょっとしゃべってピッと帰れる。そういう場所だからこそ気軽に立ち寄りたくなるんですよね。社長の個人的(?)ニーズは、見事に世の中のニーズとマッチしていたわけです。
16時の開店から19時ぐらいまでは飲みに繰り出す前の待ち合わせ、「ゼロ次会」の人たち。19~22時あたりはしっかり天ぷらを食べて飲んで、という人たち。それ以降24時の閉店までは少人数で軽く飲み直す2次会、3次会の人たち。どの時間帯も人が入れ替わり立ち替わり、店内がぎっちぎちのときもありますが、その活気というかにぎわい感もまた、立呑みのいいところですね。
さて、では私も「喜久や」さんの話、誰かに教えて引率しましょうかね。誰を連れて行くんだって? そりゃまあ、あれですよ、誰だっていいじゃありませんか。教えませんよ。