【飲むだけで満足してないか?】ジャパニーズウイスキーをあの料理に「酔い足し」(2)

酒におぼれ、白州にもおぼれる

目の前には、あの日思い浮かべたビジュアルそのままに、ココットの中でジュクジュクと酒蒸されているハマグリたちがいる。一般的な手順に従い、まず器を満たすのは日本酒だ。

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ほどなくして、静かにゆったりとバターが重力に従い滑り始める。貝殻の「へり」は、貴婦人が優雅に下りてくるオペラ座正面玄関の大階段にしか見えない。

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やがて、酒という俗世間の魔力に堕ちていく貴婦人、あ、いや、バター。

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上流社会では味わえなかった刺激に貴婦人がトロトロにとろけていくころ、別の蒸溜社会から貴公子「白州」が颯爽と登場し、バターに手を差し伸べる。……まあ二人して結局俗世に染まっていくのだが、とにかくこの頃合いで「白州」をココットに投入する。ドボドボは野暮だ。香る程度、少しでいい。

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かくして、濃密なオペラの一幕のようなドロドロの展開の果てに完成した「ハマグリの酒&白州蒸し」。早速いただいてみるとしよう。プッチーニでもBGMに。振るうタクトは割り箸に持ち替えて。

スペクタクルな二つの綱引き