日本のウイスキー6本×ツマミ35種の組み合わせを総当たり戦で全査定する、独断と偏見の「210番勝負」。(3)~(8)では各銘柄でベストマッチに輝いたツマミをカウントダウンしてきたが、今回はいよいよラスト「イチローズモルト ダブルディスティラリーズ」編だ。 ※ウイスキー6本とツマミ35種は(1)(2)で紹介している。
合うなんてものじゃない、「同化」だ。なんせ、ダブルディスティラリーズ(以後DD)自体が既に「燻製油」然としている。ズルい。甘味もコクもトローッと後出しするDDのオイリー感と、反応の早い貝柱のコリコリ食感による、緩急自在の老練な投球術もまた、ズルい。
思うにDDのオイリー感は、まったりして旨味のある「豆」の油分に近い。それがひじきの塩気を柔和にし、豆の味を濃厚にする。だしの風味も、DDの奥ゆかしい香りに付き添われて喉の奥に美しく消える。切り干し大根と双璧をなす小鉢界の重鎮も、さぞご納得であろう。
「DD≒豆」である以上、この結果は順当だ。互いの甘さが運命的なまでにシンクロする。しかもDDが併せ持つ渋味はほうじ茶を思わせ、見事にあんこを受け止める。この素養はスイーツ強者の伊達にもない。対あんこ史上最強ウイスキー。残る敵は本家「お茶」だけだ。
日本独自のミズナラ樽で熟成した原酒を使うだけに、甘さも渋味も慎ましく婉曲気味に表現されるDD。何度も噛みしめないと真意のわからない和歌を詠む平安貴族のように、ゆったりテンポの風雅と多少回りくどい曖昧さを持ち合わせている。そんな和テイストにハマるのはやはり和菓子で、「ようかん」との組み合わせなどは実に結構なお点前。また、何光年か先から届く光のように遠回しかつ深遠なDDの熟成味は、「チーズ」の円熟した酸味とは時間の流れ方が近いようで、互いに深いコクを引き出し合う。いとをかし。
と、いうことで、いかがであっただろうか。ジャパニーズウイスキー6銘柄×ツマミ35種の組み合わせを全査定した「210番勝負」。銘柄ごとにベストマッチを発表してきたが、このたった一人の味覚と嗅覚に基づく「独断と偏見」を再検証する意味でも、腕と舌と胃袋と肝臓に覚えのある呑兵衛諸氏にはぜひ各マリアージュを試していただきたい。
そして、この210を超える新たなベストマッチの発掘にぜひ挑んでもらいたい。やがてジャパニーズウイスキーが未知なるツマミとの遭遇を果たす、その日のことを思い、私はひとまず筆と杯を置くことにする。では諸君、胃腸薬の棚の前で会おう。