【ビールを「ホップの品種で選ぶ」新しい楽しみ方?】メジャーでもクラフトでもない新カテゴリー「フレーバーホップビール」の缶を飲んでみた

「この日本酒は山田錦なんですよ」とか「このワインはメルローなんですよ」とか、てっきりそういう銘柄なんだと思ってたら原料の米やブドウの品種名だった……というのは、お酒初心者あるあるだったりするわけですが、そういえば「このビールは~~なんですよ」なんつってビールを品種名で説明したり選んだりすることって、あまりない気がしますね。

ビール選びの基準といったら、だいたいまずはメーカー、あとは価格とか、最近はクラフトビールも定着してきたのでヴァイツェンやらIPAやらの「スタイル」で選ぶ人もいるかと思いますが、原料の品種を指定してくる人ってのはまあ相当なマニアぐらいなもんでしょう。

だいいち、そこまで明確に品種をフィーチャーしてつくられたビール自体が(一部の限定ものや企画ものを除けば)そんなにないというのが実情で、ワイン好きやコーヒー好きのように品種にこだわって、それについてあーだこーだうんちくを垂れながら飲むというカルチャーは(少なくとも日本の、ごく一般のビール党の間では)まだ低調なのかもしれません。

しかし、そんな風潮に切り込む新ビールがこのほど誕生したんですね。ジャパンプレミアムブリュー社から発売された「フレーバーホップビール」なるジャンルというのかカテゴリーというのか、新しい路線、です。そしてこんな既成概念への切り込みを画策しそうな人物といえば……、そう、バッカスの読者ならお気づきですね、

はい、ジャパンプレミアムブリュー社のマスターブリュワー、新井健司さんです。これまでもビールの新たな可能性を求めて、「そこ、いきますのん?」というマニアックな鉱脈の発掘に挑んできた切り込み隊長なんですね(その格闘の歴史はこちらに詳しい→http://c2h5oh.jp/category/tsukurite-omoi/)。

新井マスターが業界に一石を投じる新カテゴリービールとは?

新井マスターが業界に一石を投じる新カテゴリービールとは?

さて今回発売になった「フレーバーホップビール」。その名の通り、使用するホップの品種にこだわった、というかホップが主役でありエースで4番でありリードボーカルであるという、ホップを大フィーチャーした商品なんですね。

近年のクラフトビール人気によって、ホップにもいろんな風味・個性があり、産地も世界中に広がっていることがだいぶ認知されてきましたが、その中でも今回のビールで採用しているのは個性的な香りの「フレーバーホップ」というタイプ。そこから特徴的な2品種をセレクトし、それぞれを際立たせた2商品がリリースされました。

まず1本目が「Innovative Brewer THAT’S HOP Nelson Sauvinの真髄」。

これに使われているのが「ネルソンソーヴィン」というホップ。ん?白ワインみてーな名前だな、と思った人もいるかもしれませんが、その、まさに「白ワインを思わせる香り」が特徴のホップなんですね。これを100%使用しています。つまり他のホップは一切ナシ。

ちなみに原料のホップそのものを比べてみたのですが、日本の一般的なビールに使われるホップは手に取って香りをかいでみるとほろ苦く、ドライな感じを想起させる「The ビール」なフレーバーがする(下の写真)のに対し……

ネルソンソーヴィンはまず色が若干明るく、香りも軽快、本当にフルーティーでかすかな甘さも思わせるブドウの感じがあって、実に不思議です(下の写真)。ホップなのに、ブドウとは……!

そして飲んでみた感じも、やっぱり最初に白ワインの甘味&酸味がスーッと入ってきますね。ドライなスパークリングワインみたいな感じで、まあ不思議です。でも途中から後味にかけてはちゃんとビールののど越し、飲みごたえもあるという、面白い仕上がりです。

枝豆じゃなくてチーズでいきたいビール、って感じでしょうか。

ちなみにこの品種の故郷はニュージーランド。まさにワインの産地としても知られるネルソン地区というところで生まれ、当地のソーヴィニヨン・ブランのワインに印象がそっくりだったので、「ネルソンソーヴィン」と名付けられたそうです。土地が一緒だとホップもブドウも似てくるのでしょうか?なんというミラクル!

もう1本のフレーバーホップビールは……トロピカル?

もう1本のフレーバーホップビールは……トロピカル?

さて「フレーバーホップビール」のもう1本がこちら、「Innovative Brewer THAT’S HOP絶妙のMosaic&Citra」。

こちらの主役となるホップ品種は「モザイクホップ」。その香りはたとえるなら……パッションフルーツ。ネルソンソーヴィンの白ワイン風味もなかなかの異彩っぷりでしたが、こちらもけっこうな個性派で、「おおお、そうきたか」というフレーバーながら最後には見事にビールとして着地するという、これぞまさに新井マジック炸裂という感じです。

そのマジックの一部をネタばらししますと、実は主役のモザイクホップを引き立たせるため、脇役として別品種の「シトラホップ」も採用しているのです。あえて単一品種100%ではなく隠し香りのホップを補助的に組み合わせることで、かえってモザイクホップの個性が際立つように緻密な計算がなされているわけですね。恐るべき絶妙なレシピ設計です。

さて肝心のお味ですが、まずは口腔と鼻腔に広がるパッションフルーツのトロピカル感。華やかなスタートダッシュです。その後もライトな飲み口、アルコール分4.5%というのもあり、スルスルと、心地よくトップスピードに入ります。その後は香りの中にハーブや柑橘など他の個性が顔を出し始め、途端に複雑な表情に。「モザイク」の名を冠するだけのことはありますね。

この賑やかな祝祭感を、最後にビールらしい苦味が締めて、ノドの奥へと怒涛のゴール。下手をするととっ散らかりそうなじゃじゃ馬っぽいホップを、ものの見事に制御してみせる(その上じゃじゃ馬的個性を殺すこともしない)新井マジック。ぜひ味わってみてほしいものです。

ジャパンプレミアムブリュー社では今回ご紹介した2種類の「フレーバーホップビール」をはじめ、今後も「Innovative Brewer」というブランド名でメインストリームともクラフトとも違う、革新的なカテゴリーのビールづくりを進めるとのこと。

当面の2商品はいずれも350ml缶で、まずは関東&甲信エリアのファミリーマート・サークルK・サンクスで先行販売。また「モザイク&シトラ」の方は、サッポロライオンの一部店舗で樽生の提供もありますよ。

ビールは最初の1杯ぐらいという人も、ちょい苦手という人も、逆に大のビールマニアだという人も、「ホップの品種にフォーカスする」新しい楽しみ方で、ビールの未知なる段階に一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。