突然だが、「大阪名物」と言われてあなたは何を思い浮かべるだろうか。たこ焼き? お好み焼き? きつねうどん?
今回紹介するのは、知られているようで知られていない、隠れた大阪名物『せんば自由軒の混ぜカレー』だ。
これを自宅で調理し、ビールを買って自宅でいただく。そんなちょっとした贅沢で、休日午後を過ごそうという魂胆。
なぜ、このカレーが有名なのか。それについてはかの有名な小説家・織田作之助の『夫婦善哉』について語らなければならない。
この作品は題の通り夫婦(とは言っても実は内縁関係)が主役であるわけだが、夫である柳吉というのが恐ろしいまでにどうしようもない。
化粧問屋生まれのぼんぼんで苦労知らず、妻子ある身ながらも他の女に平気で手を出す。おまけにどのような商売をやらせても根気がなく、こさえるのは借金ばかり。おかげで内縁の妻である蝶子は日夜いらぬ苦労を強いられる。
こんなどうしようもない駄目男である柳吉だが、唯一、面白いものや美味いものを見る目だけはあるのだ。そんな彼が舌鼓を打った食べ物“ライスカレー”として、「自由軒のカレー」というのが登場する。
「自由軒ここのラ、ラ、ライスカレーはご飯にあんじょうま、ま、ま、まむしてあるよって、うまい」(織田作之助『夫婦善哉』より)
作中での描写は案外少ないのだが、この「自由軒」というのが明治の末に創業した西洋料理店で、そこから戦後の1970年に独立して設立されたのが「せんば自由軒」(母体である「自由軒」のほうも存続しているので、正確には現在“2つの自由軒”が存在している)。
というように大阪の味として長く人々に親しまれてきたこのカレー。今回は「せんば自由軒」の方の「混ぜカレー」をいただいてみようと思う。
というわけで購入した「せんば自由軒の混ぜカレー」、早速作ってみよう。作り方はいたって簡単。
1.ルーをフライパンに入れる
2.煮立ったらごはんを入れ、2~3分炒める
3.生卵を載せる
というわけで、完成。
丹念によくまむしたつもりだが、なかなか見本通りにはいかないもの。卵の形が少し崩れてしまった。
今回は柳吉を見習い、昼間から飲むこととする。レトロな空気に浸るため、あえてクーラーはつけない。
選んだビールは『キリン クラシックラガー』。古風なデザインに相性の良さを感じた。
卵を溶き、口に運ぶ。
最初はそれほどでもないが、じわじわと口の中が辛くなる。卵のおかげで、それがちょうどいい塩梅。
卵を入れると甘くなるとよく言うが、このカレーの場合はその辛味をうまく引き立てる役目。
喉にカッときたところでビールを飲む。口の中に刺激的な潤い。シンプルなキレがカレーの後味とぴったり合ってる。古風ながらもピシッとしたこの鋭さ。
芯から暑くなり汗が噴き出る身体に、ビールを流し込んで冷やす。甘くない昼間酒、良いひと時。
ということで、「せんば自由軒の混ぜカレー」とキリン クラシックラガーのレビューでした。長い長い人生、たまにはこうして真昼間から家で飲み、古き良き浪漫に浸かるのもいいかも?