【ビール史上最大の挑戦!? 】“失われた香り”を復活させる、最初で最後のクラウドファンディングが進行中

どんな分野にも、初心者や初学者に「まずこれはやってはいけません」と最初に教える基本中の基本、というものがある。サッカーのハンドとかバスケのトラベリングとか将棋の二歩とか、その道に関わっている者なら知っていて当然の初歩的な常識だ。

それでいくと、ビールの醸造を学び始めた者には「まずこの香りだけは製品になる前に消さなければいけません」と教えられるニオイがあるらしい。麦汁が酵母により発酵されるときにときに出てくるその香りは、なんでも「甘いバター」のようなものらしく、それだけ聞くと悪くない気もするのだが、我々がよく知る「爽快なノドごし」的な一般的なビールのフレーバーとしては、とにかく似つかわしくない。

しかし麦汁の発酵がビールづくりの工程上外せないプロセスである以上、この香りに出くわすのは避けることのできない宿命みたいなものだ。その定めと、人類は数千年にわたり闘い続けてきた。ビールというものをつくり始めた紀元前の昔から、人々はそのニオイをどうにか取り除いて、万民に受け入れられる「うまさ」を形づくってきたのだ。

そんなわけで“その香り”は、国やメーカーを問わず、ビール醸造の界隈では誰もが最初に叩き込まれる「消し去らないといけない」香り、なのである。

しかし紀元後2017年になって、その常識を打ち破ろうとする奇特な人物が現れた。しかもその人は日本の東京・恵比寿という、意外と身近なところにいた。バッカスの読者ならピンとくるかもしれない、あの“マスター”である。

前代未聞の思いつき、否、野望とは?

マスター、というのは他でもない、サッポロビールを親会社に持つクラフトビールメーカー、ジャパンプレミアムブリューの「マスターブリュワー」である新井健司(あらい・たけし)さんである。

その伝説(と我々編集部が勝手にレジェンド化したストーリー)は、既に「エピソード(1)(7)」まで掲載した通りで、クラフトビール「Craft Label」シリーズを手掛けるフォースの使い手、ジェダイマスターに他ならない(でなければ数千年にわたる人類のタブーに挑もうなどと思うだろうか、常人には無理な所業だ)。

ビール醸造のプロフェッショナルであると同時に、世界中のビールを飲んで舌と鼻と胃と肝臓に焼き付けてきた完全無欠のビールオタクでもある新井マスターは、あるときふと思った。思いついてしまった。

「あの香り、本当に消し去るべきものなんだろうか」

思いついちゃったんだからしょうがない。彼の中でその思いはむくむくと大きくなり、せり上がっていった。

だいたい、あの香りを消さなければいけないと言っているのは醸造界隈のプロだけであり、一般のビール好きはそんなことを知りもしなければ気にもかけておらず、そんな先入観を取っ払ってしまえば、「意外とアリ」という人だって中にはいるかもしれない。そういう「意外とアリ」から生まれて結局スタンダードになった食べ物飲み物など、この世界にはいくらでもあるではないか。

この(おそらくプロが聞けば)屁理屈すれすれの思いつきから始まったマスターの野望は、次第に周囲の人々を巻き込んでいくことになる。そしてついには、会社を動かす事態となった。

一体どんなビールをつくるというのか

「“あの香り”をあえて復活させて、ビールをつくってみたい」と新井マスターが言ったとき、周囲の反応はおしなべて「?」であった。無理もない、それは「あえて手を使いながらサッカーをしてみたい」と言っているようなもので、何が「あえて」なのか、すぐに意味を理解しろという方が困難な“明後日の方向”からの掟破りだった。

だがビールづくりのプロ中のプロが、全力で“明後日の方向”に突き抜けようとするこの無謀感こそが、このプロジェクト最大の魅力なのである。

数千年の間、ビールの醸造家たちが真っ先に取り除いてきた香りを、わざわざ復活させる。これまでの常識の中では、ただ失敗作を生み出すだけの愚行である。それをよりによって、マスター自らが全フォースを注ぎ込んでやるというのだ。ザワザワが止まらないではないか。

ジャパンプレミアムブリューの関係者も、そのあまりに向こう見ずな計画にキョトンとした心の隙を突かれたのか、この大冒険にゴーを出してしまった。ただし、賛同者が一定数いれば、という条件付きである。かくして、このプロジェクトはクラウドファンディングによって成否を決することになった。

詳細はクラウドファンディングサービス「CAMPFIRE」のサイト(https://camp-fire.jp/projects/view/32793)に詳しいが、仕組みとしてはいたって簡単。新井マスターがビール界のタブーに挑む渾身の一杯が飲んでみたい!という人たちから出資を募り、それが目標額に達すればプロジェクト成立。実際に醸造が開始され、出資者だけに届けられる。

ちなみに試作は既に行われている。例の「甘いバターのような」香りを消さずに生かすため、醸造のプロセスを大きく変更し、さらにホップの組み合わせを幾度もテストして厳選することで、「本来あってはならない」はずの香りを残しつつも「ちゃんとビールとして着地する」という、離れ技をやってのけている。恐るべきジェダイマスターの神業だ。

出資者のみが味わえる歴史的“問題作”

さて今回の新井マスターの野望には名前が付いている。その名も「失われた香りを求めて 最初で最後の異端のビール」プロジェクト。醸造家が何千年もひた隠しにしてきた“失われた香り”をよみがえらせるという、ともすると秘密結社や何かの組織に命を狙われかねない危険な試みだけに、本当に最初で最後という覚悟がうかがえる。

そんな異端も異端のビールづくりに、大手メーカーで醸造を学んだ人間が腰を上げるというまさかの展開も含め、「通常ではあり得ないこと」尽くしのプロジェクト。限定3000箱の醸造なので、気になる人は出資を検討してみてはどうだろうか。

なおプロジェクト支援には4つのコースがあり、単純に完成したビールのみをゲットするものから、記念カードやオリジナルグラスが付いてくるものや、完成品の缶に自分の名前を入れられるコースもある。さらに注目なのは新井マスター臨席のもと、いち早く試作品の試飲ができるコースで、実はまだ隠されている開発秘話なんかが(ひょっとすると)聞けるかもしれない。(下写真は缶の名入れイメージ)

ということで、ビールの歴史における最大と言ってもいいタブーに敢然と(無謀にも?)立ち向かう本プロジェクト。通常は飲み手のニーズを受けて商品をつくるはずのビールメーカーが、本気で「自分たちがつくりたいもの」をつくってしまったらどうなるのか、というどこまでも異端な企てだ。「スタンダードなスタイルのビールだけでなく、個性的なクラフトビールを含めても、こんなビールは他に存在しないと思います」と新井マスターが語る“問題作”。クラウドファンディングでの出資受付は9月10日(日)までである。

クラウドファンディングの詳細・出資はこちら

https://camp-fire.jp/projects/view/32793

プロジェクト紹介ムービー

https://www.youtube.com/watch?v=tXYIIDQriAI