マスター、というのは他でもない、サッポロビールを親会社に持つクラフトビールメーカー、ジャパンプレミアムブリューの「マスターブリュワー」である新井健司(あらい・たけし)さんである。
その伝説(と我々編集部が勝手にレジェンド化したストーリー)は、既に「エピソード(1)~(7)」まで掲載した通りで、クラフトビール「Craft Label」シリーズを手掛けるフォースの使い手、ジェダイマスターに他ならない(でなければ数千年にわたる人類のタブーに挑もうなどと思うだろうか、常人には無理な所業だ)。
ビール醸造のプロフェッショナルであると同時に、世界中のビールを飲んで舌と鼻と胃と肝臓に焼き付けてきた完全無欠のビールオタクでもある新井マスターは、あるときふと思った。思いついてしまった。
「あの香り、本当に消し去るべきものなんだろうか」
思いついちゃったんだからしょうがない。彼の中でその思いはむくむくと大きくなり、せり上がっていった。
だいたい、あの香りを消さなければいけないと言っているのは醸造界隈のプロだけであり、一般のビール好きはそんなことを知りもしなければ気にもかけておらず、そんな先入観を取っ払ってしまえば、「意外とアリ」という人だって中にはいるかもしれない。そういう「意外とアリ」から生まれて結局スタンダードになった食べ物飲み物など、この世界にはいくらでもあるではないか。
この(おそらくプロが聞けば)屁理屈すれすれの思いつきから始まったマスターの野望は、次第に周囲の人々を巻き込んでいくことになる。そしてついには、会社を動かす事態となった。
一体どんなビールをつくるというのか