クラフトビールの缶シリーズ「Craft Label(クラフトラベル)」の魅力をお伝えしているこのレポートも、今回がエピソード(2)。商品づくりの“総監督”である、ジャパンプレミアムブリュー株式会社のたった一人の「マスターブリュワー」新井健司(あらい・たけし)さんにいろいろとお話しを伺っております。
エピソード(1)では「Craft Label」が目指す新しいクラフトビールの味わい、楽しみ方を、開発の難しさとともにお聞きしましたが、ここからはいよいよシリーズを構成する3商品の具体的な魅力について、迫ってまいります。僭越ながら不肖・編集長D、皆様に代わりまして飲ませていただきますよ。「具体的な魅力」ですからね、ええ、具体的に試してみないとですね、ええ。
クラフトビールというと、味も香りも色も国・地域もべらぼうにバリエーションがあって多彩というのが最大の魅力ですが、それだけに一つひとつのキャラが濃く、ときには濃すぎて面食らうこともあったりします。もちろんそれはクラフトビールの楽しさの一つで、マニアックに好きな人たちはその強烈な個性に夜な夜なシビレているわけですが、日本でお馴染みの「黄金色でノド越し爽快なアレ」に慣れてしまったごく平均的な呑兵衛&呑み姫にとっては、なかなか「日常的に飲むお酒」にはなりにくい存在かもしれません。
そこで「Craft Label」は、クラフトビールの個性はしっかり残しながらも定番ナショナルブランド的な“親しみやすい味わい”と“安定した品質”を提供するという、「いいとこ取り」を目指して誕生しました。まさに、クラフトビール初心者にこそ楽しんでほしい家飲み缶なのです。
その第1弾として昨年発売されたのが、「Craft Label 柑橘香るペールエール」。シリーズの1発目にペールエールを持ってきたのには、何かワケがあるのでしょうか。新井さん、教えてください!
「初めてクラフトビールを飲む方も違和感なく楽しめる味わい、というのが大きいですね。日本でビールというと黄金色のピルスナータイプですが、その“延長線上”で味わえると思います。もちろん違いはありますが、普段飲んでいるビールとまったく違う、というよりも『あ、なんか違うな』というぐらいの個性の強さ、ちょうどいい距離感を狙いました」
おそらくマスターブリュワーにしかできない、絶妙なポジション取りではないでしょうか。その職人技に既にうなりつつ、編集長D、早速ペールエールを口に運んでみます。と、口にする前にまずやって来るのは、香り、いい香り! これはフルーティーですね。
「柑橘系の香ばしさがまず立ってくるのが、このペールエールの第一印象になります。秘密はフレーバーホップ。伝統的なホップはさわやかな香りですが、近年新しく育種されてきたフレーバーホップは、グレープフルーツやパッションフルーツ、レモンを思わせる華やかで変化のある香りが特徴です」
確かに嗅覚で感じる分には、いつものビールとは明らかに違う個性ですね。ではお味はと言いますと、ゴク、ゴクゴク、ゴクリゴクリ、プハーッ! おっと失礼。しかし、最後にプハーッといきたくなるノド越しの気持ちよさがしっかりありますね。
「味わいに関しては、飲み飽きないバランスの良さにこだわりました。苦みは抑えめで、甘味も少しあって。どれか一つの味だけを際立たせることはしていません。ピルスナータイプの“延長線上”にあるためには、この長く親しめる味のバランスがカギです。ただ、プハーッ! というよりは、じっくり味わって飲んでいただきたいですね(笑)」
普段飲んでいるビールと似た部分もありながら、はっきりとした違いも出せているペールエールは、クラフトビール愛飲者の間口を広げるには適任のトップバッターだったわけですね。
さて第2弾で登場したのが「Craft Label Hello! ヴァイツェン」。これは女性にオススメだと思います。軽快で香りも良く、とにかく飲みやすい。「ビールは重たくて、飲んでもちょっとだけ」という方もスルスルいけちゃうかもです。
「クラフトビールは、やはりいろいろな種類を飲み比べるのが醍醐味なので、ペールエールの次はまた違う方向性のものを出そうと考えました。ペールエールはホップが特徴的なので、次は麦や酵母を特徴にしたものを、ということで選んだのがヴァイツェンです。南ドイツ、ミュンヘンなどでよく飲まれているビールスタイルですね」
見た目は黄金色でピルスナーっぽいですが、グラスを寄せるとこれまた独特の香りが。しかもペールエールとは全然違います。これ……は……何ですかね、……バナナ?
「そうですね。バナナ、またはクローブという人もいます。酵母が醸し出す甘い香りです。では味も甘くまろやかかというと、こちらはスッキリなめらか。小麦麦芽を50%以上使っていて酸味や渋味は抑えめ、心地よい後味が残ります」
麦の旨味がしっかり感じられたあと、それが変に長引くことなく、スムーズにノドの向こうに消えていく感覚がありますね。ペールエールとはまた違うさわやかさ。本場ドイツでも女性に人気があるというのも、うなずけます。
さあ! そして、まもなく6月21日に発売となるシリーズ最新作が、「Craft Label 香り踊るジャグリングIPA」。IPAというのは、クラフトビールの中でもホップの苦みをガンガンに利かせた種類で、特にアメリカ発信で人気があり、マニアの間にはこのIPAにハマった激辛好きも存在します。
「IPAは追いかけるとかなりマニアックな世界なんですよ(笑)。ただ今のクラフトビールの盛り上がりをけん引している“代表格”でもあるので、『Craft Label』でもいつかは出そうと思っていましたね」
おお、マスターが長く温めていた作品というわけですね。これは期待が膨らみます。では、どんな激辛が襲ってくるか、覚悟しつつ……、チビ、チビチビ、ん? ゴクゴク、おや? 飲みやすいですよ? ゴクリゴクリ、うまい! これは一体……。
「だいぶ飲みやすい仕上がりになっていると思います。本来はガツンと苦いIPAですが、これは心地よい飲み口で『あ、確かに苦い、けどイケるね』とエントリー層が思えるようなテイスト。もちろんIPAならではのグッとくる苦みはしっかり楽しめます。だけど、いつまでも苦みが残らないように。“スッと来てスッと消える”ように。味覚に馴染んでいくIPAを目指しました」
これまでの2本に比べるとボディ感がしっかりあります。でもそれがズッシリ感にならないのは、華やかな香りが次々と現れる嗅覚の楽しさがあるからでしょうか。「香り踊るジャグリング」とは、言い得て妙です。
なんでも、苦みを出すためのホップ以外に、香りだけを付けるホップ、香りと苦みを付けるホップ、という3種類のホップを使用しているのだとか。日本、アメリカ、チェコ、と世界中のホップから吟味した3つだそうで、途方もない労力の跡がうかがえます。しかしIPAの苦さとエントリー層に向けた飲みやすさを両立するには、他にも想像を絶する試行錯誤があったのでは?
「どういうホップを使うか、どういう配分で合わせるか、製造過程のどのタイミングでホップを入れるかで、最終的に感じられる苦みのニュアンスは変わります。何度も仮説を立てては試験を繰り返し、私たちの知見、技術を総動員してレシピを固めていきました」
「通常は仕込と言われる、麦汁を作る段階でホップを入れるのですが、煮沸するときに香りがかなり飛んでしまいます。そこで今回は、仕込のあとに麦汁を冷やして発酵させるタイミングでホップを再度添加する『独自のドライホッピング製法』を採用しました。初めて取り入れた技術で、工場設備も一部改良するなどのチャレンジでしたが、なんとか香りの成分をよりダイレクトに引き出すことに成功しました」
クラフトビールならではの個性の強さと、日常的に飲み続けたくなる親しみやすい味わいの「いいとこ取り」は、やっぱり一筋縄ではいかないのですね。我々ただの呑兵衛&呑み姫には想像もつかない、ピンポイントのさじ加減をめぐる格闘が日夜続いていたわけで。その司令塔として醸造をまとめ上げた新井さんは、もはや完全無欠の「マスター」なのでした。いやもう新井さんのいる方角に足を向けて「Craft Label」は飲めません。
さて、クラフトビール初心者にこそ楽しんでほしい「Craft Label」。その魅力は“普段の家飲みでもいけちゃうクラフト”というところにあるわけですが、次の最終回・エピソード(3)ではペールエール・ヴァイツェン・IPAの多彩な風味をそれぞれもっとおいしく楽しむためのアレやソレをご紹介します! ということで新井さん、麦とホップが渦巻く銀河のジェダイマスターとしてもう少しお付き合いのほど、よろしくお願いいたします!