【たまにはお勉強】「ビール」と「ブランディング」の幸福な関係……からの、新ブランド「Innovative Brewer」考察

ビールメーカーの「無形の設備投資」?

熊谷氏のプレゼンテーションでまず興味深かったのが、国内外のビールメーカーの「売上高」と「時価総額」の関係である。普通に考えれば、いっぱい売り上げている企業の方が外部からの評価(仮にその会社を買収するとして、いくらなら出そうと思うか)も高そうなものだが、必ずしもそれに当てはまらないメーカーもあるとのことだった。

たとえば近年クラフトビールが盛り上がっているアメリカでは、中小規模のブルワリーでも高い時価総額で評価されるところがあるし、全米で飲まれる(比較的大きな規模の)クラフトビールブランド「サミュエル・アダムズ」を手掛けるBoston Beer社の時価総額は、日本の大手ビールメーカーのそれと拮抗していたりする(売上高だけを見れば国内大手の方が圧倒的に大きいにも関わらず、だ)。

こうした、売上高という「数字」以外の部分でその企業の価値を押し上げている「見えない要素」が、「ブランド」と深く関わっている。ブランドというのは一般には「ブランド物のバッグ」のような使われ方をする、言ってみれば「価値とか信頼とか人気を示す”印”」と思われているが、ことマーケティングの世界でブランドと言えば、その印を媒介に企業(あるいはその商品)とユーザーが築き上げる”関係性”までを含む概念を指す(……はは、どうだ、勉強っぽくなってきただろう)。

よって「~ing」が付いて「ブランディング」になると、それは「関係性をつくること」ということになる。単純に「売って売って売りまくれ」ということではなくて、極論売り上げが立たなくても、狙った人たちと良好な関係が築ければ、それは十分「ブランディング」なのである。

「ブランドとしての価値が高い」というのは、何も高級ブランドという意味ではなく、「あの企業(商品)はユーザーとうまいことやってるな」という状態を指している。たとえばスーパーに行って、その日の特価品とかとは関係なく必ず買う(買ってしまうことがデフォルトになっている)商品があるとすれば、特別高級じゃない歯磨き粉やふりかけでもその人にとっては「ブランド」なのである。

で、話をビールに戻すと、時価総額の高いメーカー/ブルワリーというのは、つまり「飲む人とうまく関係をつくれているブランド」になっているのだ。ユーザーがそれを選んでしまう関係性(が潜在的にあるだろうという評価)に対して、価値が発生している。ビールメーカーにとって、もちろん売上を求めることも大事なのだと思うが、一方で上手に関係を築くこと(ブランディング)もいわば設備投資として、きっと同じくらい重要なのだろう。それは将来的に売上を生む、それこそ「無形の設備」となるわけだから。

そして、ここ数年ビール業界においてブランディングを成功させているのが、クラフトビール、マイクロブルワリーといった比較的小規模な作り手たちということになる。それらは「こだわりがある」「効率優先でなく手間ひまをかけている」「独立していて個性が強い」「伝統を大切にしている」「常識に挑戦している」といったそれぞれのポジションを確立し、それが飲み手にとっては”選ぶ理由”となっているのだ。

……とここまでは熊谷氏のプレゼンテーション(&それを聞いての筆者の補足的考察)。では、「Innovative Brewer(イノベーティブ・ブリュワー)」は一体どんなブランドになろうと生まれたものなのか?と話は続く。……ん?イノベー……、って何だ、と思われた諸君。すまんすまん、説明が前後した。新井マスターがタクトをふるうジャパンプレミアムブリュー社が昨年から新たに展開しているビールブランドの名が「Innovative Brewer」なのだ。

Innovative Brewer

ということで、ここで講演者がバトンタッチ。新井さんが新ブランドに込めた思いを語ってくれた。

「もうカテゴリーとか、よくないすか?」