【小田原の夜】酒の匂いに導かれ、編集長D、夜の果てに一軒の明かりを見つけた話

【小田原の夜】酒の匂いに導かれ、編集長D、夜の果てに一軒の明かりを見つけた話

また小田原の街をさまよっている。編集長Dである。編集長Cもいる。かつてこの「バッカスの選択」の特集「ジャパニーズウイスキー×つまみの210番勝負」で、6本のウイスキーと35個ものつまみを激写していただいたカメラマンのT氏もいる。1泊2日、まったく別件の取材の初日が終わった。市内に「酒匂川(さかわがわ)」という一級河川が流れている以外は、酒の匂いの一切しない取材。実に清々しく爽やかな取材が終わった。しかし、まだ床につくには時間がある。我々には、まだ長い夜が残されている。酒の匂いのプンプンする夜だ。

小田原の街

3人で小田原の街をさまよっている。新幹線の駅からほど近い街の中心部の、路地の最奥部に立つ古びたビジネスホテルを出て、呑兵衛の勘を羅針盤にあてもなく夜をかき分けて進む。編集長Cが「クレジットカード不可の店は不可」というので、JCB・ビザ・マスター・アメックスのマークを目印に歩く。と、少し落ち着いた雰囲気の小路にぼんやり明りの灯る店が目に入ってきた。クレジットカードのロゴもある。申し分ない。こうして、我々の夜が始まった。

編集長C&D&カメラマンT氏の今夜の活動報告

お店の名は「百舌厨房」……と書いて、「モズキッチン」と読む。モダンな内装のダイニングだ。CとTがビールを頼み、Dは日本酒を頼む。富山の純米吟醸「羽根屋」だ。ワイングラスに0.5合。ボディ感のあるやや甘だ。

富山の純米吟醸「羽根屋」だ。ワイングラスに0.5合。

小魚の南蛮漬けや豚の唐揚げなど、イントロダクションとしてはしっかりめの味と言えるお通したちにもよく合う。

小魚の南蛮漬けや豚の唐揚げ

さらにオーダーした漬けマグロとアボカド。いわずもがなこのマッタリ感にも「羽根屋」は高いシンクロ率でマッチする。

漬けマグロとアボカド

と、気づくと編集長Cが2杯目に進んでいる。果実酒だ。小田原は「梅」「みかん」など、知る人ぞ知る果実酒の街。今回は「レモン酒」のロックだそうだ。一口もらう。酸っぱさを予測して身構えるも、最初の口当たりは甘め。後から酸味がやって来る。いや酸味というより渋味か。しっかりした「酒」感が楽しめる一杯だ。

「レモン酒」のロック

これには真鯛のカルパッチョがパートナーとして適任。オリーブオイルがメインのシンプルな味付けだけに、レモンの香りがアクセントとしてよくハマる。

真鯛のカルパッチョ

そうこうしているうちに肉が来る。自家製ハンバーグwithデミグラスソースだ。テリテリトロトロしたシズル感の塊を口に放り込む。

自家製ハンバーグwithデミグラスソース

これはまあ、ビールかなあ、やっぱり。とカメラマンT氏が手にするグラスを見る。というかT氏、まだ1杯目である。というのも、このあと実は1件だけ夜分遅い撮影が残っているのでセーブしているのだ。なんというプロ意識! しかしそれを言うなら、CとDがこうしてセーブもせず飲んでいるのも、ある種の“プロ意識”なのだ。ということを付け加えておきたい。

明日もあるが、その前に「今夜がある」のだからしょうがない

というところで、ぼちぼち本日ラストの撮影の刻限が迫る。シメでパスタをオーダーする。メニューには、「業務用冷蔵庫の中身で出来そうなパスタ」という興味深い名前がついている。今夜の「冷蔵庫の中身」は地元・小田原産のしらすと青のり。それをガーリックオイルで仕上げた一品だ。具材があっさり系だけに、オイルの濃厚さが立ってきて思いのほかズシリと来る。存在感のあるシメだ。

「業務用冷蔵庫の中身で出来そうなパスタ」地元・小田原産のしらすと青のり。それをガーリックオイルで仕上げた一品だ。

ふと見ると編集長Cが3杯目に進んでいて、「焼酎の水レモン割り」を飲んでいる。今日はレモン縛りという個人的テーマでもあるのだろうか? ちなみにこの「水レモン割り」というのは、小田原発祥とも言われるご当地ドリンク。焼酎の水割りに地元産のカットレモンを入れる気取らない酒だ。

「焼酎の水レモン割り」

またCから一口もらう。非常にスッキリしている。日本酒のボディ感もアボカドのマッタリ感もハンバーグのシズル感もパスタの存在感も、最終的に心地よく切り上げてくれるこのフレッシュさ。もろもろがリセットされるかのような爽快感。二日酔い防止にも良いかもしれない。明日も早いし。

……ん?あ!明日も早いのだった!朝イチから取材じゃないか!やばいやばい、こんなに飲んでていいのかね。いいのか?いいのか。いいね。いいんだよね。このあとの本日ラストの撮影(それも飲食店)に行ったってどうせ飲むんだしね。いいよね。そうだよ、いいんだよ。何も恥じることはない。あるわけがない。CとDがこうしてセーブもせず飲んでいるのも、ある種の“プロ意識”なのだから。ということを最後に再び、声を大にして付け加えておきたい。読者各位には、太平洋のように広い心で受け止めてもらえればと思う。

太平洋