白州、ぬる燗で。

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小料理屋なりバーなりスナックなり、酒場に入ってウイスキーを頼むと、客は同時に何かを決めなくてはならない。「飲み方」である。ここでは水割り、ロック、そしてハイボールがいわば御三家で、あとはストレートか、それに氷無しで加水するだけのトワイスアップなどが好事家によってたまに選択される。……というのがウイスキーの常であるはずだ。

40度に温められたウイスキー

そこに、まさか「ぬる燗」が割って入るとは、最初はちょっと想像できなかった。ある小料理屋でそのメニューを見たとき、その飲み方は日本酒の専売特許ではないのか? メニューの記載ミスではないのか? といぶかしがったものだが、聞けば確かにウイスキーのぬる燗は存在するというので試しに頼んでみた。ほどなくして出てきたそれは、日本酒の場合と同様に急須のような燗瓶に入ってぐい呑みと一緒に卓に乗った。しかし中身は日本酒ではない。サントリーのシングルモルト「白州」だ。

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まあウイスキーにもお湯割り、つまりホットウイスキーという飲み方が元来ある。グラスにストレートのウイスキーを適量注いでから熱めの湯を多めに加え、さらに柑橘類の果汁やシナモンなどのハーブ類を好みで混ぜて楽しむものだ。ウイスキーに対してお湯の比率が高く他のフレーバーも入るので、どちらかというとウイスキーの「飲み方」というよりは「ホットカクテルの一種」といった位置づけに近いかもしれない。

白州だから、ぬる燗にぴったり

一方、この白州のぬる燗は、ウイスキーと水をおそらく1対1ぐらいの比率で混ぜたものを燗瓶に入れ、人肌よりやや高めの40度まで熱してある。他の香りづけもないので、ホットウイスキーに比べると純粋にウイスキーの風味が前面に立ってくる印象だ。もちろん熱燗ほどアツアツではないものの、普段飲むウイスキーよりは高い温度なのでアルコールの芳香がぐい呑みからフワッと立ち上る。

初めに加水しているためかスモーキーだったりウッディだったりというウイスキーのクセの強さは幾分丸くなっていて、甘い香りやまろやかさといったソフトな部分がより際立つ感覚もある。この点では元々優しく爽やかなフレーバーで知られる白州は、ぬる燗にするには格好のシングルモルトだったとも言えそうだ。

アテはスモーキーなアレ

このように比較的ソフトな飲み口のぬる燗なので、アテとして合わせる食べ物には逆に個性の強さ、キャラの濃さが求められる。そこで選んだのが「へしこ」(青魚のぬか漬け)だったが、これがなかなかのマリアージュだった。へしこ独特の塩辛さと煙たい風味が、ちょうどぬる燗になることで丸められていたウイスキーのクセを穴埋めするようで、一緒に口にすると新しい「白州」がもう一度味覚の中で再構成されるような発見があった。基本的にスモーキーな味わいの肴なら、いい組み合わせになってくれるだろう。

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初めの一歩はぬる燗で

ということで白州のぬる燗、酒器がそろっていれば自宅でもつくることができるし、何より口当たりをマイルドに仕上げてくれるので、ウイスキー独特のハードな風味がちょっと苦手だという初心者や女性の方にも良い「最初の一歩」になってくれるかもしれない。“人肌で始めるウイスキー”というのも、悪くない響きではないか。